ライバルが成功し、脅威となった時にはどうすれば良いのか。高千穂大学の永井竜之介准教授は「ライバルの長所を真似て吸収し、相手の差別化を打ち消して、自身の強みに変えることは競争の基本ともいえる有効な戦略だ」という――。

「真似」はネガティブなことでない

前回の「無関心」(「少年ジャンプ+」はなぜ読み切り作品重視なのか…冷めた消費者を振り向かせる緻密な仕掛け)に続き、今回は「真似」というキーワードから、マーケティングの裏側を取り上げていこう。

日本では、特に近年、「オリジナルこそ正義」と考えるオリジナル信仰がますます強くなり、「真似」と聞くと反射的にネガティブなものに受け取られがちだ。しかし、「学ぶは真似る」という言葉があるように、真似の完全否定は、学ぶ姿勢を失うことにつながるといっても過言ではない。「人気の何か」や「価値ある何か」があったら、それらを学び、真似て取り入れることは悪ではなく、当たり前の姿勢であると考えた方が成長しやすくなる。

例えば、スポーツの世界では、成功者の真似は上達への近道だ。野球、サッカー、バスケットボール、テニス、陸上、水泳など、あらゆるスポーツの世界で記録が更新され続ける大きな理由は、偉大な先駆者の方法を真似て取り入れ、自分のものにしていくところにある。偉大な成功者の練習方法やトレーニング方法、プレーや戦術などを徹底的に分析し、優れた部分を真似て取り入れながら成長し、その先に自分の新しいオリジナルへ発展させることで、選手は進化を続けていく。

職人の技術の世界でも同様だ。昔ながらの職人の世界では、師匠が弟子に手取り足取り教えることはなく、頼れるマニュアルもない。その代わりに「目で盗む」が当たり前とされる。優秀な技術者のやり方を観察し、自分で真似てみて、コツを覚えていき、自分なりの技術に昇華させて、さらに向上させていく世界だ。

大量の「コピー」に囲まれたたったひとつの「オリジナル」
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「真似」の先に「オリジナリティー」を生み出す

ビジネスでも、まったく同じことが当てはまる。第2次世界大戦後にさかのぼれば、多くの日本メーカーが、まず真似から始めることで飛躍を遂げた。自動車もバイクも家電も、欧米の先進的な製品を取り寄せて分解し、構造を学んで、長所を吸収して取り入れていった。ライバルの長所を真似て作り、そこに少しずつ差別化を加えていった製品を自社商品として発売する。これが、日本が世界に誇った「メイド・イン・ジャパン」の一歩目だったはずだ。しかし、日本の企業も人も、いつからかオリジナル信仰を持ちすぎるようになり、他の真似を敬遠するようになった。

だが、同業種のライバルでも、異業種の企業でも、優れた他社に学んで真似ることは、成長においても、競争においても、極めて重要だ。近年のビジネスを見ても、中国発のショート動画SNS「TikTok」が大流行すれば、すぐさま米国のYouTubeもInstagramも当然のようにショート動画機能を真似て取り入れている。ライバルの長所を真似て吸収し、相手の差別化を打ち消して、自身の強みに変えることは競争の基本ともいえる有効な戦略だ。新たな成功者が出てきたとき、すぐライバル視して真似できるかどうか。その判断の早さと実行力は、重要なスキルである。まず真似から始めて、真似の先にオリジナリティーを生み出せばいい。