ユニークな直列6気筒ディーゼルエンジン

日本仕様のPHEVモデルについてはまだ詳細が発表されていないので、直列6気筒ディーゼルモデルについて分析してみたい。直列6気筒は理論的に完璧なバランスの取れた理想的なエンジンなのだが、長さが長くなるためFF車には搭載しづらい。

山崎明『マツダがBMWを超える日』(講談社+α新書)
山崎明『マツダがBMWを超える日』(講談社+α新書)

ほとんどの車がFFになってしまった現在、乗用車用の直列6気筒エンジンを量産しているメーカーはBMW、メルセデスベンツ、ジャガーランドローバーのプレミアムブランド3社のみにとどまる。

この新しいマツダのエンジンは単に直列6気筒エンジンだというにとどまらないユニークな特徴がある。このエンジンは3300ccとかなり大きな排気量を持っている。通常、排気量が大きくなるとパワーは大きくなるが燃費は悪くなるというのが常識だ。

もちろん、CX-5に搭載されている2200ccのエンジンよりパワーは大きい。CX-5の190馬力に対して254馬力(マイルドハイブリッド仕様の場合。通常モデルは231馬力)となっている。しかし排気量が1.5倍になっているほどの出力向上ではない。

BMW X3の場合2000ccディーゼルは190馬力なのに対して3000ccディーゼルは286~340馬力となっているので、3300ccとしては控えめな出力である。

大排気量を生かして低燃費を実現する「常識外れの試み」

いたずらにハイパワーを追わない姿勢は最近のマツダらしいが、これにはきちんと理由がある。マツダは大排気量を生かしてかえって低燃費を実現する、という常識外れのパラドックスに挑んでいるのである。

マツダは大排気量の余裕を生かして、リーンバーン領域を大きく拡大、出力あたりの燃料消費率を大きく下げることに成功したのだ。さらにディーゼルエンジンの欠点であるNOx排出量の大幅低下も実現している。

特にマイルドバイブリッドモデルでは、効率の低下する低負荷領域は電気モーターに任せることで全域での高効率化を図り、燃費に不利な4WDモデルであるにもかかわらずWLTCモードで21.1km/lという素晴らしい値を実現している。マイルドハイブリッド非搭載でも18.5km/lという数字だ(4WDモデルの場合。2WDは19.8km/l)。

これがどれほどすごいかというと、ボディサイズの近いBMW X3 20d(2000cc)の14.5km/l、M40d(3000cc)の13.8km/lと比較すれば一目瞭然だ。メルセデスベンツGLC 220d(2000cc)も15.1km/lである。