現代は必要な成分のみを輸血する「成分輸血」が主流

こうした血液にまつわるデマにだまされないためには、血液の成分や役割について基本的な知識を持っておくことが大切です。まず、今の医療では全血輸血はほとんど行われていません。患者さんが必要とする成分のみを輸血できるためです。

血液は大きく分けて細胞成分の「血球」と液体成分の「血漿けっしょう」からできています。

血球は「赤血球」「血小板」「白血球」の3種類。輸血と聞いて皆さんがまず思い浮かべるのが赤血球輸血でしょう。血液から白血球、血小板、血漿をできるだけ取り除き、赤血球の成分を多くした輸血です。「濃厚赤血球製剤」と呼ばれることもあります。血小板は止血の役割を果たす血球で、血小板輸血製剤は赤血球が含まれていませんので赤くなく、黄色です。白血球の輸血は、現在ではかなり特殊な病態にしか使われていません。

血小板の成分輸血
写真=iStock.com/P_Wei
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血漿にもさまざまな成分が含まれていますが、血漿輸血は主に血液を固めて止血する役割のある凝固因子の補充を目的に使われます。凍らせると細胞が壊れる血球成分と違って、血漿は凍結保存可能です。臨床の現場では「新鮮凍結血漿」と呼ばれています。ちなみに献血の「成分献血」では、血液中の血小板や血漿成分だけを取り出します。

「血液は生理食塩水で代用できる」説の真偽

さて、世の中には「血液は生理食塩水で代用できるから輸血は必要ない」という耳を疑うようなデマもあります。

確かにごく少量の出血であれば輸血は必要なく、生理食塩水をはじめとした輸液を使います。また大量出血した場合でも、輸血の準備ができるまでは輸液でつなぐことがあります。出血によって体を循環している血液量が減ると、体は血管を収縮させて血圧を保とうとしますが、さらに出血が続けば血圧は下がり、各臓器に十分な血液を送ることが難しくなるためです。生理食塩水を点滴すれば血液の量が増えますので、血圧は維持されます。

しかし、大量出血時に生理食塩水の点滴を続けると血液がどんどん薄くなります。血液の成分の一つである赤血球の役割は酸素を運ぶことです。血液が薄まり赤血球が減ると貧血に陥り、十分な量の酸素を運ぶことができなくなります。こうなると赤血球輸血が必要です。また血を止める役割がある血小板や凝固因子は出血によって失われ、消費されます。輸液や赤血球輸血だけを行っていると血が止まりにくくなりますので、血小板輸血や血漿輸血によって補充する必要があるのです。大量出血時には、赤血球、血小板、血漿を適切な割合で投与することで臓器不全や外傷後合併症が減少すると考えられています(※2)

輸血が必要になるのは、大量出血時だけではありません。白血病や再生不良性貧血のように血を造る働きが弱って赤血球や血小板の数が減る病気に対しても、輸血は有効な治療法です。こうした病気では体を循環している血液の量が減ったわけではないので、生理食塩水を輸液しても効果がありません。やはり輸血が必要です。

※2 J Trauma. 2009 Jan;66(1):41-8; discussion 48-9. “Predefined massive transfusion protocols are associated with a reduction in organ failure and postinjury complications