マーケティングもユニークだった。一例を挙げると、LVMHはグループとして飛行機の機内誌の広告を何ページも買い上げる。そのほうがボリュームディスカウントされるからだ。ただ、広告として出すのは各ブランドで、LVMHはその内容にはタッチしない。また販売に関しても、DFSのようなブランドをたくさん売る免税店チェーンを買収するなどして、展示スペースのドミナント戦略を実行する。

経営と各ブランドで役割を明確に分け、互いに侵さない。LVMHが成長した最大の理由はここにある。

松下の買収法はLVMHと同じ

アルノーの説明を聞いて、私は松下幸之助さんを思い出していた。

実は松下電器(現パナソニック)は買収で大きくなった会社である。冷蔵庫は中川電機、ファクシミリは寿、自転車は宮田というように、私がコンサルタントとして関わっていた当時、売り上げの半分以上は過去に買収した事業からあげていた。

松下の買収法はLVMHと同じだった。買収したら、泣く子も黙る鬼の経理マン、高橋荒太郎の門下生を送り込み、まず経理を握る。それから販売権も握り、全国一律の家電販売網・機電販売網で販売する。しかし、開発や生産は、買収先に任せて口を出さない。家電量販店の時代が来るまで、国内はこの方程式で非常にうまくいっていた。幸之助さんは経営の神様と呼ばれるが、より正確に言えば日本の「買収王」だったのだ。

ちなみにフィル・ナイトは、アルノーの話が腹落ちしなかったようだ。ナイキ・インラインスケートやビジネス・シューズなどの分野でいくつも会社を買収したが、派遣した経営者は“西部劇メンタリティー”で征服欲が強く、買った会社を“ナイキ化”してしまう。その結果、ほとんどが失敗に終わり、本当に必要な事業は結局ゼロから自分たちでつくり直す羽目になった。

イーロン・マスクも、おそらくアルノーの話を鼻で笑うに違いない。しかし、笑っていられるのは技術力と瞬発力だけで通用する段階までだ。そろそろ自身の人間性を問われる段階に入ったというサインが、今回の転落劇だったのではないだろうか。

(構成=村上 敬 写真=時事通信フォト)
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