授産施設での生活指導は非常に効果的

通ってくる障害者の程度に合わせて、さまざまな仕事があって工賃が支払われる。ただし、労働に対する給与という通常の雇用ではなく、障害者の労働によって収益が上がったら、それを分配するという性格のもので金額も低い。したがって授産施設の売上げには税制上の優遇措置があり、そこに勤務する職業指導員(*6)の給与は別途公費でまかなわれる。

だから指導員は作業指導だけでなく、生産性を度外視して、あいさつ、礼儀、言葉づかい、身だしなみなどの生活指導まで行なうことができるのである。これはある意味、ホームの職員にとってありがたかった。

なぜならホームは家庭と同じように利用者にとっていこいの場所である。リラックスできて当たり前のところなので、礼儀や規律を教え込むには不向きである。それに対して「障害者授産施設」は働く場所なので規律があり、メリハリがある。ヒコさんが通っている「星空園」という作業所もそのひとつである。利用者がホームで前夜、どんなに扱いづらく乱れていても、翌朝、星空園のマイクロバスで指導員が迎えに来ると、シャキッとなるのであった。

(*6)障害者の職業訓練の指導や、自立した就業をサポートする。おもに障害者の就労支援を目的とした事業所に勤務する。必須の資格や免許、実務経験などはなく、事業所の選考に通過すれば働くことができる。ただし事業所によっては「介護職員初任者研修」などの資格保有者や、一定の実務経験者を応募要件としているところも。

「障害者就労支援」には大きく4種類に分けられる

障害者たちが働く場を大きく分けると、

①一般企業の障害者雇用枠
②障害者授産施設

の二通りがあり、みなそのどちらかで働いている。最初は、働ける場所があるのだなあ、と思った程度だったが、徐々に就労支援制度の詳細がわかってくるにつれ、この制度の綿密さと相談員の面倒見の良さに、私は感銘を受けることになる。その概略を説明しよう。「障害者就労支援」の内容は4種類に分けられている。この4種類を理解すればこの制度の全貌がわかる。

(1)就労移行支援 一般企業の障害者雇用枠で働くことをめざす。支援があれば一般企業が用意した仕事に就く能力のある、軽度な障害者が対象になる。能力向上には本人の働く意欲も含めてトレーニング期間が必要である。2年間を限度として努力し、それでも一般企業への就労が無理なら、「就労継続支援A型」「B型」に切り替える。

(2)就労定着支援 一般企業に就労したあとに行なわれる支援。障害者側だけでなく、企業側の未熟さによるトラブルもあるので、支援は就労後も続けるのが原則である。

(3)就労継続支援A型 一般企業での就労は不安で困難であるが、一定レベルの仕事はできる人が対象。たとえば、カフェやレストランのホールスタッフ、ご当地ストラップのパッキング、パソコンによるデータの入力代行など、比較的単純作業が多い。就労先は一般企業ではなく「授産施設」になるが、雇用契約を交わすので最低賃金は守られ、給与は月8万円くらいになる。勤務時間が短く、日数も少ない場合もある。

(4)就労継続支援B型 A型では困難な障害者ができる軽作業(*7)などを行う。雇用契約は結ばず、作業収益の分配が給与ではなく、工賃として支払われる。タカさんには「就労支援センター(*8)」の田中さんという相談員がついていた。

(*7)名入れ刺繍などの手工芸、パンやクッキーなどの製菓、クリーニング衣類の封入、農作業、ボールペンの組み立て、新聞折り込みなど、さまざまなものがある。
(*8)正式名称は「障害者就業・生活支援センター」。障害者の就労機会の拡大を図るため、自治体が設置する支援施設で、職業能力に応じた就労の場の確保だけではなく、職場定着の支援や生活相談までを行なう。また一般就労まで至らない障害者については授産施設などへの結びつきを支援する。登録すれば無料で相談できる。