二の腕には十数カ所の“根性焼き”が…

「小学2年くらいから学校に行かないで遊んでたよ」
「一人でかい?」
「うん、姉ちゃんや兄貴もあまり学校へ行ってなかったから……」
「そのうち児童養護施設に預けられたんだね」
「うん、大部屋に年の違う子が何人もいたから、一人の部屋が欲しかったんだ」
「大部屋に何人もいたんじゃ、たいへんだったろう」

私がそう言うと、顔が曇った。

「いじめとか、そういうのもあったのかい?」
「……うん、根性焼き(*2)、見せようか?」

そう言って腕まくりをする。二の腕には十数カ所、タバコの円の大きさに皮膚が白くなった跡が残っていた。「同じ部屋の年上のやつら(*3)に中学のときにやられた」

タバコ
写真=iStock.com/Rattankun Thongbun
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笑いながら言う。養護施設の中でも、職員の目を盗んで、こうしたことが行なわれているのだ。

「ここじゃ、一人の部屋がもらえて良かったね。今の部屋、広いだろう。独り占めしているのは贅沢かもよ」
「うん、そうだね」

嬉しそうに笑う。コミュニケーションはふつうにとれ、話していると、どこにでもいるふつうの19歳の若者である。ただ、あいさつはできないし、部屋は足の踏み場もないほど散らかり放題だ。けれど、これは障害というより、幼いころから、そういう生活習慣のない環境にあったからではないかと思えた。

(*2)火のついたタバコを体に押し当てることで、もともとは不良少年たちが我慢強さをアピールするために行なわれた。周りが盛り上がった円形の傷跡が残る。
(*3)タカさんの児童養護施設での思い出はこうした凄惨せいさんなものばかりではない。その証拠にタカさんはオートバイで事故死したという養護施設時代の先輩の墓へ、毎年詣でているのだった。

一般企業の障害者就労枠に就職するのが夢だった

文章を書くと小学6年生くらいの文章力だが、これも小学校低学年のときから授業放棄をしていたのだから当然だろう。たとえば、彼はスマホでキャッシュレス決済ができた。いわゆるガラケーしか持っておらず、スマホなどチンプンカンプンの私から見れば、こうした社会的能力では私より上ではないかとも思った。

19歳になったばかりのタカさんには、一般企業の障害者就労枠に就職するという大きな目標がある。「ホームももとせ」で働き始めるまで、恥ずかしながら私は障害者の多くが就労していることを知らなかった。

企業はその規模に応じて障害者を雇用しなければならない、と「障害者雇用促進法(*4)」によって定められている。ただ、一般企業で対応するのは難しい障害者も少なくない。そういう人たちは、自治体、社会福祉法人、赤十字社などが運営する「障害者授産施設(*5)」といわれる事業体が対応している。

(*4)従業員43.5名以上の企業は、全従業員の2.3%の割合で障害者を雇用する義務があり、達成すれば助成金もつく。達成できないと1人当たり月5万円を納付するペナルティが科される。障害者を雇用する義務は続き、実施できなければハローワークからの勧告と指導があり、それでも満たせない場合は企業名を公示されることになる。
(*5)おもに政府機関や社会福祉法人などの団体によって運営される心身障害者施設のひとつ。2006年の「障害者自立支援法」の施行により、障害種別の授産施設の多くは就労移行支援事業所と就労継続支援事業所(A型、B型)などへ移行したが、われわれは「授産施設」と呼んでいた。