大手雑貨チェーンに就労することができたが…

この人の指導で授産所に通って仕事をしながら、能力の向上に努めていたのだ。つまり(1)の就労移行支援の適用だった。支援を受け始めて1年以上経ったころ、タカさんは大手雑貨チェーンのP市支店に就労することができた。そして週5日、朝出かけて夕方帰ってくるという生活が始まった。

タカさんなら続けられる(*9)と私は期待していた。けれども、それは3カ月と続かなかった。持病の喘息が出て休むことが多くなり、やがて出勤しなくなった。月例の職員会議でその真相が明かされた。タカさんが勤務した雑貨チェーンは大型店で、家具、食器、インテリア雑貨、ステーショナリー、アクセサリーと豊富な商品がある。店員はバイトも含めて、納品の検品から展示、商品補充、レジ、接客とすべてをやるのが原則である。

ガラスを選ぶ女性の手
写真=iStock.com/Hakase_
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バイトも入れて約40人の店員の中で、ただ1人の障害者従業員であるタカさんは、接客はせずバックヤード担当にされた。バックヤードは納品日には大きな段ボールが何十個も入ってきて重労働になる。ふだんは売れた商品の補充や棚と商品の清掃がある。きついけれども、彼の場合、残業はなくて夕方5時に退社できるので、身体への負担は大きくはなかったそうだ。

(*9)夕方、仕事から帰ってきたタカさんに「仕事、どうだった?」と水を向けると、「荷物の積み下ろしがかなりキツイ」などと話してくれた。「キツイ」「たいへん」とはよく言っていたが、それは愚痴ではなく、その表情から一般企業で仕事をしていることの誇らしさを感じ取ることができた。西島さんとも「タカさん、いい感じですね」などと話していたのだが……。

「あなたねえ、接客できないんでしょ!」

ある土曜日、午後になると店は混雑し、店員はみな忙しく動きまわっていた。タカさんはフロアの責任者から、「これ大急ぎでインテリア売り場に届けて!」

と台車に載せた照明器具を渡された。「はい」と返事をして大急ぎでインテリア売り場へ向かっていると、通りすがりの通路で接客をしている女性店員から声がかかった。

「高野君! ちょうど良かった。このお皿、食器売り場に届けてくれない? 私、お客さまの相手があるから」
「すみません。これをインテリア売り場に至急届けるよう言われてますんで。すぐ戻ってきますから」

そう言ってインテリア売り場に向かった。インテリア売り場での受け渡しが終わってさきほどの場所に戻ってみると、荷物を載せたままの台車に手をかけた女性店員が不機嫌そうに待っていた。

「あなたねえ、接客できないんでしょ! そういう人は接客している店員が呼んだらすぐ飛んできて荷物運ぶのを交代しなくちゃダメなのよ! おかげで、私がこんな台車を引いてお客さまをご案内させられたわ」

憎々しげに言うと、自分で運ぶはずの台車を彼に押し付けた。