天守閣が現存する城は全国に12しかない。城をテーマにした著書を持つ評論家の八幡和郎さんは「文化庁は『木造復元』を求めているので、天守の復元をあきらめている自治体も少なくない。しかし鉄筋コンクリートの大阪城天守閣は、昭和の名建築として登録有形文化財になっている。木造復元にこだわるのではなく、地元自治体の選択が尊重されるべきではないか」という――。
日本人の美的感覚の原点とも言える城下町
城下町を故郷に持つ人は、日本人のなかで羨望の的である。白亜の天守閣は華麗にして清冽、曲線が美しい石垣と碧い水を満々とたたえたお堀の見事なコントラスト、凛とした町並みのたたずまいなど日本人の美的感覚のひとつの原点とも言えるものがそこにある。
だが残念なことに、世界文化遺産・姫路城(兵庫県)のように、創建当時の美しさをそのまま今に伝えているのは例外的だ。天守閣が残っているのは姫路城に松本城(長野県)、犬山城(愛知県)、彦根城(滋賀県)、松江城(島根県)を加えた国宝5天守など、12城でしかない。
私は小学生のころから「城マニア」であり、『江戸全170城 最期の運命 幕末・維新の動乱で消えた城、残った城』(イースト・プレス)、『日本の百名城 失われた景観と旅の楽しみ』(ベストセラーズ)という、城をテーマにした本を2冊書いている。
また、天守閣の復元など城跡の整備について、歴史的景観の維持復元とか、都市開発や観光の観点からさまざまな提言を行ってきた。
天守閣の木造完全復元は「正しい」のか
そういうわけで、プレジデントオンラインに掲載された歴史評論家の香原斗志氏の記事〈日本に「本物の城」は12しかない…城めぐりを楽しむ人たちに伝えたい姫路城と小田原城の決定的違い〉はたいへん興味深く読ませていただき、お城をこよなく愛されているお気持ちをうれしく思った。
本稿では、香原氏の記事ではあまり触れられていなかった、明治維新の時にどのように天守閣が壊され、一部は残されたのか、について解説するとともに、天守閣の復元問題に対する私の考えを紹介したい。
それは、近年、木造復元が主流となっているが、街づくりや地方自治などさまざまな意味で弊害が多く、ある種の「木造復元マフィア」の利権あさりの犠牲であるというものだ。