台風の日に採寸に来てくれた店長

わたしはひたすら申し訳なく思いつつも、これも珍しい体験だと思い、日付を打ちあわせた。店長は言った。「今日はさすがに無理ですが、明日でもかまいませんよ」「えっ明日? 台風が来ますよ?」「ええ、かまいません」。恐縮も恐縮、ひたすら恐縮ではあったが、せっかくだからとお願いした。明日、教会にまで採寸に来てくれる。わたしのために。その日の晩は緊張してなかなか眠れなかった。

雨のみずたまり
写真=iStock.com/Mr_Twister
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大雨のなか店長は教会にやってきた。その姿は、ズボンがびしょ濡れにならないよう防水具を履いて、ビニール傘をさし、片手には交換品。彼はわたしより少しだけ年下だろうか。いや、若々しく見えるが、じつはわたしよりも年長なのかもしれない。若い店員とは違って、採寸の際わたしが腕時計を外そうとするも「いいです、ふだんどおりで」と、じつに手際よく袖丈を測ってくれた。

「いやあ、教会なんて、ずいぶん久しぶりです。では、出来上がり次第ご連絡します」。彼はそれだけ言うと、一礼して帰っていった。じつに気持ちのよい人だった。

職業人としての誇りを感じた

出来事を簡潔に要約すれば、わたしの苦情に対して店長が謝罪し、商品を交換する応対をとったということである。だがわたしにはそれ以上のことに思われた。わたしはだめでもともと、サイズを直してくれるならこれ幸い、無理なら短い袖もまた仕方なしという、その程度の電話をかけただけである。それに対する店長の機転。それに、なによりわたしが感銘を受けたのは、店長の堂々とした態度であった。

店長はわたしに対して、ぺこぺこ頭を下げることを一切しなかったのである。「申し訳がございません!」というような大げさな謝罪も言わなかった。彼はそんなことよりも商品を交換すること、わたしの家まで出向いて袖丈を測り直すこと、そういった素早い応対でもっておのれの態度を表明したのである。

わたしは「商品を交換してもらえて得をした」ことだけがうれしいのではない。ましてやクレームしたもん勝ちだとか、そういう下品な悦びでは決してない。もちろん、商品を交換してもらえて助かった。そのことに心から感謝してもいる。だがそれ以上に、店長の職業人としての誇りにふれることができた、そのことにわたしは感銘を受けたのである。