2年にわたる暴力で肋骨を3本骨折

それでも、給料を高く設定すればなんとか人は集まる。他業種に比べ、採用が困難であることに違いはないが、「送り出し不可能職種」になる理由はほかにもある。暴力だ。

本書執筆の最中にも、痛ましい事件が世間を騒がせた。

広島県福山市の労働組合「福山ユニオンたんぽぽ」は2021年1月17日、岡山市内で2019年秋にとび職の実習生としてベトナムから来日した実習生と共に記者会見を開いた。

実習生は職場の同僚から2年にわたって暴力を受けており、靴のつま先などに鉄板が仕込まれた安全靴で蹴られ、肋骨ろっこつを3本骨折したこともあった。

骨折した際は、会社から階段から落ちたことにしておけと指示されたという。

その後、同建設会社4人は傷害などの疑いで書類送検されたが、岡山区検察庁は2022年8月4日付で全員を不起訴処分としている。

事件の痛ましさと同時に、筆者は建設業界に実習生が集まらなくなっている状況を再確認した。被害を受けたベトナム人実習生は、41歳だった。

ハンマーで殴られたベトナムのエリート

ベトナム出身のファム・コク・ベト(37歳)は、2019年9月にとび職の実習生として来日し、1カ月間の入国後講習を経て、同時に入国した別のベトナム人実習生2人と神奈川県内の建設会社で働き始めた。

会社は、社長を含め、日本人が3人。そして、ベトを含め、実習生が3人の小さな会社だった。

実習生の受け入れ数は常勤の職員(いわゆる正社員)数により上限(基本人数枠、図表3参照)が決まっている。

【図表3】実習生の上限
出典=『外国人まかせ

最も少ない受け入れ枠は常勤職員30人以下で、技能実習1号で最大3人、2号で最大6人になる(団体監理型の場合)。

社長からの暴力は、働き始め、すぐに始まった。

足場の資材となる鉄パイプで叩かれたり、ヘルメットの上からハンマーで殴られたりした。

監理団体のベトナム人通訳を通じ、やめてほしいと訴えたが、変わらなかった。

年末に実習生3人で「別の会社に転籍したい」と監理団体に伝えたが、新しい仕事はすぐに見つからず、帰国するしかないと言われた。ベトはこう話した。

「ベトナムで面接を受けたとき、社長は体が大きく、金髪で、体には入れ墨が入っていました。そのときから嫌だなと思っていましたが、送り出し機関から『年齢的にほかの会社では採用されないから、建設しかない』と言われ、あきらめました。一緒に働いていた実習生の1人は40代でしたが、年が明けた2月に早々に失踪しました。自分は100万円近い借金があり、失踪後にお金を稼げる保証もないので、暴力に耐えながら働き続けました」

ベトは、ベトナムの最難関大学の一つ、国立のハノイ工科大学を卒業したエリートだ。

日本で言えば、東京工業大学卒業といったところだろう。

大学卒業後は母国の建設会社で働き、その後、中国系の建設会社に転職した。

「給料は日本円で6万円くらい。地方では高いほうですが、早くに亡くなった父に代わり、農業を営む母親を助けたかった。インターネットで送り出し機関の広告を見て、今の2倍は稼げる日本で働きたいと思った。月に12万円くらい仕送りをしたかった」