満足に発射実験が行えなければ性能は上がらない

日本が発射試験を行うとしても、これまでの他の装備の開発実績から推察すれば、その発射回数はおそらく一桁止まりであろう。アメリカの場合は100発近くを撃った上で導入され、部隊に配備される。それも、電子妨害等の最も困難な実戦を模擬した戦術環境下での迎撃を含む試験発射である。ここに厳然たる性能の違いを生む要因がある。

たとえば、米軍が開発したSM2というミサイルがある。イージスシステムに用いられる艦対空ミサイルだが、2020年までに2700発を撃っている。対空ミサイルを特技としてきた筆者の経験では、そのうち1割5分から2割ぐらいは失敗する。この失敗が最も重要なのだ。

失敗があるからこそ、次の開発に生かされる。これがBL1(末尾の数が大きくなるほど性能改善と向上型)、BL4、そしてSM6(イージスのSM2、SM3の最新型後継ミサイル)といった、より高性能なミサイル開発に生かされ、その性能が進化していくのである。

なんでもかんでも「国産」にするのが本当に適切か

そして、12式中距離地対艦誘導弾にしても、03式中距離地対空誘導弾にしても、いずれも国産兵器である。ここまで言えば、私が何を言いたいのか、お分かりだろう。昨今、防衛省・自衛隊の立場は、なんでもかんでも「国産」となりがちだが、その判断が正しいとは私には思えない。

香田洋二『防衛省に告ぐ 元自衛隊現場トップが明かす防衛行政の失態』(中公新書ラクレ)
香田洋二『防衛省に告ぐ 元自衛隊現場トップが明かす防衛行政の失態』(中公新書ラクレ)

防衛産業を育てるためには、もちろん、国産装備を採用したほうがいいのは事実だ。いざという時に、頼る国がいなくなる事態を想定すれば、防衛装備は国産化したほうがいいということだ。

1998年度から2012年度までは防衛費が減り続け、防衛産業にとっても「冬の時代」だった。このため高額な国産装備の調達が減っていき、自衛隊のみを顧客とする防衛装備市場が急速に縮小した。同時に、自衛隊の防衛力維持のために実戦能力の高いアメリカ製装備の購入が増えることは必然の流れであった。

この「冬の時代」に、コマツなど国内の企業は次々と防衛産業から撤退している。事態に危機感を持ち、この流れの反転機会を探っていた防衛産業界にとっては、岸田内閣の掲げる防衛費対GDP比2%政策は絶好の機会なのだ。それで、ここぞとばかりに、防衛省は「国産、国産」と言い募る雰囲気になっている様に思える。