中国人民銀行は既に、政府系銀行の融資能力を高めるため、担保補充貸出(PSL=金融機関への中長期の貸し付け)を再開している。具体的には9月に国家開発銀行と中国農業発展銀行、中国輸出入銀行に対して、総額1082億元(2兆1300億円)をPSLで注入した。

こうした国を挙げての景気刺激策は、インフレの抑制に必死な欧米諸国の対応と衝突するリスクをはらむ。

デカップリング(切り離し)

需要の低迷と債務の増大に加え、中国は自国の経済と西側、とりわけアメリカ経済とのデカップリングの可能性に備えるという難題に直面している。

もちろん、中国と欧米のデカップリングが貿易や投資の即時かつ完全な停止という形で起こる可能性は低い。しかし習が軍事力による台湾の「再統一」も辞さない構えである以上、中国経済を欧米の厳しい制裁にも耐えられるようにしておく必要はありそうだ。

もちろん中国も、既存のグローバルな金融システムから排除されることを望んではいない。しかし人民元を基軸とした代替的なシステムの土台を築こうとはしている。この新たなシステムには、中国の金融機関だけでなく諸外国や国際機関も参加する独立した決済ネットワークが含まれる。

さらに、中国はデジタル人民元を利用した金融のデジタル化を急速に進めてもいる。こうしたシステムに十分な数の国が参加すれば、欧米の制裁による影響をかなり相殺し、中国の地政学的な影響力が強まる可能性はある。

しかし、いかに習の権力が絶大でも、世界中をドル経済圏から離脱させることはできない。中国主導の代替システムはまだ能力も範囲も限定的だから、少なくとも現時点では、欧米の強力な制裁から中国経済を完全に守るには不十分だ。

一方、テクノロジーの分野では既に中国と欧米の間で、技術標準の違いやサプライチェーンの分断などが生じつつある。しかし現状では、アメリカの輸出規制に対して中国勢は弱い。

あの華為技術(ファーウェイ・テクノロジーズ)も、アメリカの制裁措置によって昨年の売上高は過去最悪の減収となった。生き残るために、同社は収益性の高いスマートフォン事業を政府系の企業連合に売却した。

そして最先端の技術は諦め、アメリカによる輸出規制の対象にならない程度の半導体や技術を用いた製品で新たな市場を開拓しようとしている。アメリカの輸出規制強化で、中国企業は欧米の先進技術にアクセスしにくくなった。

8月時点でも、米商務省のエンティティー・リスト(取引制限リスト)には約600の中国企業が登録され、うち110社以上はバイデン政権の発足後に追加されたものだ。