9月段階で、中国の家計負債の総額は名目GDPの62.4%に達していた。中国人民銀行(中央銀行)の報告書によると、19年時点でも住宅ローン(中国では物件の完成以前に組まれ、返済が始まる例が多い)が家計負債の75%以上を占めていた。

今年6月末時点では、住宅ローンの残高は39兆元(約770兆円)近くに達している。住宅ローンの負担が重ければ、当然のことながら消費に回せる資金は減る。手元資金が足りなくなれば、庶民は消費者ローンで資金を借りる。

今年6月末時点で、消費者ローンの残高は総額17兆元(約335兆円)弱にまで膨らみ、住宅ローン残高の40%以上に達していた。これとは別に懸念されるのは、いわゆる「一帯一路」構想に基づく大規模なインフラ建設事業に関連する諸外国への貸し付けだ。

中国の金融機関が諸外国に融資した資金の4分の1(約940億ドル相当)は既に返済が滞り、債務再編の交渉が始まっている。「一帯一路」は習政権の看板政策であり、だからこそ金融機関の多くは積極的に融資に参加し、そうすることで党と政府への忠誠心を示そうとした。

政治的配慮に基づく融資だから、リスク管理は後回しにされた。そのツケが、いま回ってきた。債務不履行となった場合に、中国の金融機関が当該国の鉄道や港湾を差し押さえたらどうなるか。

中国の融資は略奪的で、途上国を「債務の罠」にはめるだけだという悪評が一段と広まるだろう。逆に、債務再編や返済免除に応じれば中国の金融機関が損失をかぶることになる。国際的な信用の毀損と国内の金銭的損失のどちらを選ぶか、中国政府は難しい選択を迫られる。

いずれにせよ、財政で国内の需要を刺激したければ、手っ取り早いのは公債の発行を増やすことだ。現に国務院(内閣に相当)は地方政府に対し、総額5000億元(約10兆円)の特別目的債の発行を10月末までに完了するよう指示していた。

また個々の開発政策に関わる3000億元(約6兆円)の融資計画に加え、さらに3000億元の支援も決定している。その原資も公債の発行だから、地方政府の借金はますます増えることになる。

金融政策での対応も難しい。日本を除けば世界は金融引き締めの方向に進んでいるから、中国政府としても低金利政策で需要を刺激するオプションは採りにくい。経済活性化のためとはいえ、中央銀行が大胆な金融緩和に踏み込むのは容易でない。