まじめに働くよりも……

「生活保護はその時点での必要性で判断します。だから、財産を遊び尽くして借金を重ね、退職と同時に生活保護の受給を受けることだって簡単です。医療費をはじめ、あらゆるものが無料になりますから、下手にコツコツ生きて年金生活をするより、生活条件がいい場合も多いのです」そう指摘するのは、都内の区役所で福祉を担当するベテラン職員のAさんだ。

「業界では、そういう悪意のある人たちを“福祉ゴロー”と呼んでるんです。生活保護は一回認められると、特別な理由がない限り、支給を切られることはなかなかありません。都心の都営住宅に優先的に安く住めて、医療はタダ、病院に毎日無料タクシーで通うこともできます。それが悪質とまでは言い切れませんが、ワーキングプアで子供の薬代を出せない、病院にいくのも限界まで躊躇するというギリギリの暮らしをしている家庭もあるのに……」

制度の隙をついて、はじめから生活保護に頼って暮らす前提でライフプランを組む人も出現している。

「居住地域や家賃にもよりますが、単身者で月に12万~13万円くらいの支給額があって、医療費や年金も免除になると考えると、額面で手取りが月収17万円のサラリーマンと同等以上の暮らしができます」

本当にその人に生活保護が必要かどうか、個別に判断するのは難しい点も多い。

全世帯の3分の1が生活保護という西成地区。生活保護であれば賃貸の取り逃しもなく安心だ。写真下は受給日に人でごった返す西成区役所。職員は丁寧に敬語対応していた。

「貧困支援のNPOとか、そういう団体の援助があれば受けやすいのは確かですね。ホームレスを囲って生活保護費を集める“貧困ビジネス”も数多く報告されています」

筆者が、区役所の窓口に通りかかったとき、泥酔した男が大声で窓口の担当者に、

「生活保護をよこせ、このままでは生きていけない。お金持ちから金を搾り取ってもっと(生活困窮者に)回せ!」

と、フロアに響く大声で叫んでいた。そのときはAさんがかけつけ、「酔いが醒めてからもう一度お越しください」と冷静な対応をしていた。

「生活保護以下の水準の生活をしているのに、“税金で食べさせてもらうのは申し訳ない”の意識が歯止めになって、保護を申請していない『潜在的生活保護者』は全国に莫大な人数がいます。この人たちまでに生活保護の給付が始まったら国の財政がもたないでしょうね」

※すべて雑誌掲載当時

(呉 琢磨=撮影)
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