ライバル柏の葉は、街全体が整然としている

つくばエクスプレス沿線でほぼ同時に開業した柏の葉キャンパス駅の「三井ショッピングパーク ららぽーと柏の葉」は、「流山おおたかの森S・C」にとって最大のライバルだ。

柏の葉キャンパス駅は「キャンパス」を名乗る通り、東京大学柏キャンパスと千葉大学柏の葉キャンパスがある。少し歩けば千葉県屈指の広さを持つ柏の葉公園があり、駅前には三井ガーデンホテルがあり、国立がんセンター東病院も近い。

三井不動産が所有していたゴルフ場「柏ゴルフ倶楽部」の広大な土地を再開発した柏の葉キャンパスは計算し尽くされた街である。地権者は三井不動産のみなので、思い通りの区画整理ができ、街全体に整然と街路樹が植えられている。

一方の流山おおたかの森は、雑然とした森と農地だった。乱開発すれば緑は失われ、どこにでもある「駅前」になってしまうだろう。それでは街の価値は上がらない。

井崎は人口増を当て込んで進出してくる企業に、まず敷地内の緑化を求めさらに「10年以上、緑を枯らさないで欲しい」と条件をつけた。「きちんと植栽の手入れをしろ」というわけだが、こちらの方が植えるよりよほどお金がかかる。

「緑化は街の価値を上げる。街の価値が上がればあなたたちデベロッパーの利益にもなる」

井崎の考え方に近かったのが東神開発だ。商業施設を建てるだけでなく街路を含めた街全体のクオリティを上げることが、賑わいのある街づくりにつながる。東神開発は玉川髙島屋S・Cの経験でそれを知っていた。

開発業者が驚いた市長のひとこと

「落札したのは東神開発」

一報を聞いた井崎は飛び上がって喜んだ。

「流山おおたかの森S・C」の建設が始まると井崎は東神開発にもう一つ、注文をつけた。

「流山おおたかの森駅は高架だから、改札とショッピングセンターを結ぶ空中通路を作って欲しい」

建設費は全額東神開発の負担だという。駅からS・Cまでは数百メートル。雨の日も濡れない屋根付きの空中通路を作れば、億円単位の負担になるので、当然、東神はいい顔をしない。

井崎は言った。

「空中通路で駅と直結すれば2階もグランドフロアになる」

グランドフロアとは通常、地上1階を意味する。通行人が入りやすく物が売れるので賃料は2階や地下の2倍が相場だ。グランドフロアの面積が2倍になるのだから、施設運営者の儲けは増える。駅前広場を横切ってくる客と空中通路を渡ってくる客。人の流れが二つになれば賑わいも増す。