自分が原発を動かすかのような首相発言
まず、首相が7月に動かすと宣言した9基について言えば、それらは、すでに再稼動を果たしていたものばかりであった。特重施設設置工事や点検、修理のために一時的に運転を停止していたケースはあったものの、23年1~2月には稼働することがすでに織り込み済みの原子炉であった。
端的に言えば、首相には出番はなく、動くことは決まっていた。にもかかわらず岸田首相は、あたかも自分が動かすかのような言い方をしたのである。
次に、再稼働を果たしていない7基について言えば、そもそも8月に岸田首相が方針表明した時から、これらの再稼動に政府がどうコミットするのかは、きわめて不明確であった。
原子力規制委員会の許可を得ながら再稼働を果たしていない7基の原子炉のうち、東京電力・柏崎刈羽6・7号機は、東京電力の不祥事によって、規制委員会の許可自体が事実上「凍結」された状態にある。日本原子力発電・東海第二は、裁判所によって運転を差し止める判決が出ている(原電側と原告側がそれぞれ控訴)。
23年夏以降の電力危機解消にも役立たない
残りの4基、つまり東北電力・女川2号機、関西電力・高浜1・2号機、および中国電力・島根2号機の4基は、運転再開に関する地元自治体の了解も取り付けており、再稼働へ向けての準備が進んでいる。ただし、女川2号機と島根2号機については、再稼働のために必要な工事が、23年夏・冬までに完了しない。
したがって、柏崎刈羽6・7号機、東海第二、女川2号機、島根2号機の5基の23年夏・冬における再稼動は、政府の強力なコミットがない限り実現しないことになる。にもかかわらず、岸田政権は、これら5基の再稼動に対して、これまでのところ、コミットらしいコミットをほとんどしていない。その結果、これら5基の原発は、23年夏・冬の電力危機解消には役に立たない見通しなのである。
今回の事例が示すように、岸田政権は、原子力に関してポーズをとるきらいがある。表向きは、原子力が電力危機克服の「切り札」となり、政府がそのためにリーダーシップを発揮するかのように派手にぶち上げるが、必要な具体的施策は講じない。そのこともあって、肝心の原発の電力危機解消効果も、すでに織り込み済みだった域を超えることなく、限定的なものにとどまっているのである。