アメリカ市場でどのように拡販したらいいのか――これがTVSにとって大きな課題だった。そんなときにパゾットから「アメリカのMBA(経営学修士)学生からコンサルティングを受けてみませんか?」と声を掛けられた。同社経営陣は二つ返事でOKした。
その後、学生グループはTVSの経営を調べ上げ、事業戦略を携えてイタリアへ飛んだ。チェントロはミリキン大とTVSをつないだほか、学生グループによるイタリア訪問に絡んだロジスティックスも担当した。
小さな集落ににぎわいをもたらす存在に
USASBEとの提携も大きな一歩だった。2022年7月にウルバーニアにやって来たUSASBEの一行は学生ではなく教員であり、テーマは「ルーラル起業」。チェントロはルーラルという強みを存分に生かしつつ、潜在顧客として学生に加えて教員まで取り込むきっかけをつかんだ。
コロナ禍で疲弊していたウルバーニアも2022年7月には徐々に平常を取り戻しつつあった。レストランやカフェは通常通り営業し、街中ではマスク姿もまばらになっていた。
USASBEの研修プログラムが最終日を迎えると、パゾットはブラマンテの中庭に現れた。プログラム参加者全員に修了証書を手渡すためだ。終始笑顔で、みんなにハグしていた。「皆さんと一緒の10日間はとても楽しかったです。また来てくださいね」
道行く人々はパゾットを見掛けると、大きく手を振ってあいさつしていた。彼のおかげでUSASBEがやって来て、ウルバーニアににぎわいをもたらしていると分かっているのだ。コミュニティーオーナーシップがあるからこそ住民は彼に全幅の信頼を置き、期待を掛ける。
日本でも「人文系ベンチャー」は花開くか
地球の裏側では岸田政権が「日本をアジア最大のスタートアップハブにする」と宣言し、総額10兆円のスタートアップ育成計画をぶち上げた。ここで主に想定されているのはIT(情報技術)やバイオをはじめとした研究開発型ベンチャーであり、教育や文化といった人文系は二の次にされがちだ。
その意味で、パゾットが事業継承した大学発ベンチャーのチェントロは斬新に見える。百パーセント民間主導で百パーセント人文系。それでありながら「第二創業」を経てウルバーニアに大きな活気をもたらし、地方創生のお手本となっているのだ。(文中敬称略)