AIJに預けた基金だけでなく、厚生年金基金の多くが積立金に大きな穴をあけている。掛け金では年金の給付をまかなえず、積立金を取り崩している基金は314、10年以内に積立金が底をつく基金は17も。積立金がなくなると、給付減額、掛け金引き上げなどで当該企業や従業員の負担となるが、企業破綻を避けるため税金による救済の可能性も。

年金基金の職員は普通、基金を設置している会社からの出向者で占められていて、資金運用の素人が多い。彼らは投資顧問会社の運用実績を調べて運用を任せるが、素人だからリポートの真偽を判定できない。AIJの虚偽のリポートに多くの年金基金がだまされたのは、年金基金が資金運用の素人によって運営されているからである。

「だったら、だまされた会社とAIJの問題ですよね。やっぱり夫の会社とは関係ないわ」

たしかに、私企業が厚生年金に上乗せするために積み立てていたお金を質の悪い投資顧問会社にだまし取られただけなら、秀美さんの言う通りだ。しかし2つの理由で、この問題は当事者間の問題に収まらないのだ。

第1は、年金基金がAIJに託した資金には厚生年金の資金が含まれているという点だ。

年金基金は一般的に、社員から集めた独自の資金に厚生年金(国)から借りた資金を合体させて大きな資金にし、それを運用会社に託している。本来、厚生年金は国が運用するものだから、年金基金が国に代わって運用するという意味で、この行為を「代行」と呼ぶ。

年金基金は、市況がよければ代行によって大きな運用益を得ることができるが、市況が悪化すると逆ざやが発生する。バブル崩壊以降、多くの年金基金が代行を返上したが、返上せずに損を取り戻そうと焦るとAIJのように虚偽の高利回りをうたう会社にひっかかるハメになる。

いずれにせよAIJがすった資金には、私企業の資金だけではなく厚生年金の資金、つまり「国のお金」も含まれている。そういう意味で、AIJの問題は他人事ではないのである。