ついに破られた「GDP1%」の不文律

日本の2022年度の防衛費は補正予算を加え、史上初めて6兆円台に突入したが、本予算だけで言うと、近年、5兆円前後で推移してきた。

防衛費はGDP(日本のGDPは年間570兆円程度)の1%以内に抑えるという不文律が存在してきたためだ。

政府が示した2022年度の「骨太の方針」では、外交・安全保障の強化を盛り込み、防衛力を5年以内に抜本的に強化するとしている。

その後、欧米などNATO加盟国に倣い、「GDPの2%」を目標に、防衛費の増額論議が交わされてきたのは様々なメディアが報じたとおりである。

これらの結果、岸田首相は2023年度から5年間の防衛費について総額43兆円程度とし、2027年度にはGDPの2%に達する予算措置を講じるように指示するに至った。

外交・防衛の指針となる「国家安全保障戦略」、反撃能力の保持を明記した「国家防衛戦略」(旧防衛の大綱)、そして今後5年間の防衛費の内訳を記した「防衛力整備計画」(旧中期防衛力整備計画)も固まり、日本の防衛費は年々増えて10兆円を突破することが確実となった。

「防衛に金をかけるなら医療や教育に回せ」

これには、増額分の財源(主に税負担)の問題をはじめ、筆者が身を置くマスメディアの世界でも異論が相次いできた。

1つは、NATO加盟国と日本とでは事情が異なる点だ。

NATOでは、締約国が武力攻撃を受けた場合、全締約国に対する攻撃と見なし、集団的自衛権を行使することが求められている。日本の場合、そうはいかない。

NATOと日本とでは、GDP比の算出方法にも違いがある。

NATO加盟国の国防費には、退役軍人年金や日本の海上保安庁に相当する沿岸警備隊の経費、PKO(国連平和維持活動)への拠出金なども含まれるが、日本はこれらを除外して計算している。日本もNATOの基準で計算すれば、防衛費はGDP比で1.2%を超えていて、「もう十分ではないか」という声があるのだ。

もう1つが、「防衛費に回すなら医療費や教育費に回せ」という意見である。

◇防衛費に上乗せする5兆円を別の用途に使えば可能になること
・消費税率を2%引き下げることができる=約4.3兆円
・年金受給者1人当たり年間12万円を追加支給できる=約4.8兆円
・医療費の窓口負担をゼロにできる=約5.2兆円

こんなことができれば夢のような社会になる。筆者もそれを望みたい。

とはいえ、中国の国防費が年間で26兆円を超えている事実を思えば、トランプ政権時代からアメリカが日本をはじめ同盟国に求めてきた「GDPの2%」というラインは、5年でクリアしておくべきだろう。