「グレーゾーン」が21世紀の戦争の形
こうした「グレーゾーン」の状態が長く続くのが現代の戦争であり、それに対処するには、防衛費の増額が不可欠になるのである。
1999年に発表された、中国軍の2人の大佐、喬良と王湘穂による戦略研究の共著『超限戦』(KADOKAWA)では、平時と戦時、軍事と非軍事の境界を曖昧にする手法が、21世紀の戦争の形だと説明している。
この書は、中国軍の公式文書ではないが、
「戦争以外の戦いで勝ち、戦場以外の場所で勝利を得る」
という中国軍の兵法が端的に表されている。この考え方は、「戦わずして勝つ」という孫子の兵法にもつながるものだ。
中国軍が台湾や尖閣諸島に侵攻する場合、空爆や上陸作戦を開始する前に、貿易戦や金融戦、そして外交戦といった非軍事の戦いを仕掛け、情報戦、サイバー戦、電子戦といった軍事と非軍事の境界が見えにくい手法で揺さぶりをかけてくると想定される。これは、軍事攻撃に入る前に絶対的優位な状況を作り出すためだ。
日本はすでに戦時下と考えなければならない
中国の習近平総書記は、2期目がスタートした2017年10月、中国共産党大会で、
「態勢を作り、危機をコントロールし、戦争を抑止し、戦争に勝つことができるようにする」
と述べ、「中国の夢、強軍の夢を目指す」と宣言した。
そして、2022年10月、異例の3期目に突入した際は、台湾統一に自信を示し、武力行使も辞さない考えを強調してみせた。
これらの言葉にも、「グレーゾーン」を作り出し、最も警戒するアメリカ軍に出撃の口実を与えず、戦火を交える前に様々な戦いを仕掛け、台湾と尖閣諸島を獲るという決意がにじみ出ている。もちろん、その仕掛けはすでに始まっている。
これが、いわゆるオールドメイン戦(全領域戦)であり、日本としては、すでに戦時下と考え、この対策にコストをかけなければならない理由である。
そのための財源が、国債ではなく、法人税やたばこ税、それに復興特別所得税などによって賄われようとしている点には疑問が残るが、防衛費の増額と相応の負担は、残念ながら避けて通れない問題だと申し上げたい。