平穏の裏で「戦争」は確実に近づいてくる

かつては平時と戦時を分けるというシンプルな考え方であったが、アメリカ海軍などは、日々の競争→危機→紛争、と段階的に捉えるようになった。

アメリカ陸軍も、戦争に至る期間を競争と紛争に分け、昔でいうところの平時を、相手国と競争している期間と解釈している。これはアメリカ空軍も同様である。

ロシアによるクリミア半島併合やウクライナ侵攻を見ても、実際に空爆や砲撃を始める前の段階、いわゆる「グレーゾーン」の期間が存在する。

2014年3月に起きたクリミア半島併合で言えば、ソチ冬季五輪が閉幕して4日後、突如としてクリミア全域のテレビやラジオが使えなくなった。

電話もインターネットも使えなくなり、住民たちが「何が起きているのか」とうろたえる中、正体不明の武装勢力が、議会、行政施設、メディア、通信施設などを次々と占拠し、ロシアはこれといった戦闘をすることなく、半島全域を手中に収めた。

ウクライナ侵攻でも、事前に工作員を潜入させ、「ウクライナがロシア系住民に攻撃を仕掛けてきた」との情報を流させ、ウクライナ軍の無線通信やGPS(衛星利用測位システム)の利用を電波妨害で遮断するなど、周到な準備を重ねている。

中国軍が好き勝手に動くのを許すのか

これが台湾だとどうだろうか。

台湾本島の東側は山々が連なる天然の要害で、北西と南西地域にしか大部隊を上陸させられる海岸線がない。

そのため、中国軍が犠牲を減らそうと思うなら、「グレーゾーン」の期間を長くし、その間に、蔡英文政権(2024年以降であれば次期政権)に対するデマを流す、工作員を潜入させて独立派を扇動し、軍事介入する口実を作らせるなど、様々な仕掛けが必要になる。

尖閣諸島併合に関しても、中国軍ではなく武装した漁民が押し寄せる、沖縄のアメリカ軍を電磁波攻撃で動けなくするといった動きを見せるはずだ。

尖閣諸島をめぐる中国と日本
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この期間はとても平時とは言えない。とはいえ戦時とも言い切れず、「グレーゾーン」と分類するほかない。台湾側は、中国の仕業だと断定できず、目に見える攻撃も受けてはいないため、軍も反撃できない。

日本で言えば、安全保障関連法で定める「重要影響事態」に該当するかどうかの判断が微妙で、自衛隊を防衛出動させることは不可能だ。

アメリカ軍も警戒こそすれ、この程度で鎮圧に軍を派遣することはないため、海上保安庁や沖縄県警だけで対処を迫られることになる。