安倍氏は防衛費の大幅増額を訴え続けた

「自分で努力しない国に手を差し伸べてくれる国はどこにもない。日本とアメリカの間には強固な同盟関係があるが、何もしない日本のために戦うことに、アメリカ国民の理解を得ることができるだろうか」

2022年7月6日、元内閣総理大臣、安倍晋三は、時折、小雨が降る蒸し暑い横浜駅西口で、参議院選挙の応援演説に立った。

そして、憲法の中に自衛隊をきちんと位置づけることの重要性と防衛費の大幅な増額を、駅前を埋め尽くした聴衆に向けて熱く訴え続けた。

安倍は、通算3188日に及んだ総理退任後、自民党内で保守派と呼ばれる勢力の要となってきた。防衛費増額に関しても、

「まず7兆円を視野に、国債を発行してでも大幅な増額を」

との論陣を張って世論をリードしてきた。

この日の演説も、アメリカ頼みだけでなく、「まず日本が憲法を改正し、防衛費を増やして努力することが不可欠」と説く、安倍らしいメッセージとなった。

その安倍が、奈良市の近鉄大和西大寺駅前での応援演説で凶弾に倒れて亡くなったのは横浜駅西口での演説から2日後のことだ。

台湾侵攻の危機が迫る八重山諸島

筆者が、安倍が唱えてきた防衛費増額に同調する理由は2つある。

1つは、前述の「防衛力整備計画」に盛り込まれたスタンド・オフ・ミサイルの保持や無人機の開発などと同じように、八重山諸島など島嶼部の防衛と住民避難のための備えにコストをかけてほしいという点である。

台湾とは110キロ程度の距離にある日本最西端の島、沖縄県の与那国町には約1700人が住んでいる。尖閣諸島を抱える石垣市は約4万9000人、尖閣諸島とは150キロ程度しか離れていない宮古島市は約5万5000人が生活している。

尖閣諸島が侵攻を受けそうになった場合はもとより、中国が、これらの島々の目と鼻の先にある台湾に侵攻する動きを見せた場合、「住民をどう避難させるか」は避けて通れない問題になる。

そしてもう1つは、近年、戦争の形、戦争の捉え方が変化し、その対応に費用がかかるという点だ。