嫌な記憶が浮かんだら「ありがとう」を10回唱える
このように映画を見て、実際に犯罪者になる人は少数です。しかし、自分の嫌いな相手の、人と目を合わせない、嫌みを言う、高圧的な態度をとるなどといった嫌な部分を繰り返し見ているうちに、自分も同じような態度をとってしまうことがあります。相手をコントロールしたり、復讐しようと囚われているうちに、自分が相手に似てしまうのです。
自分が怪物にならないためには、嫌な相手とは距離をとることです。憎い相手に対する一番の復讐は、その相手のことを忘れて幸せになることだからです。
ケンブリッジ大学の認知神経科学のマイケル・アンダーソン教授は動機性忘却を実践することで、望ましくない記憶のネガティブな影響を制限できると言っています。その動機性忘却の一つに「思考置換」という方法があります。
例えば、嫌な相手や出来事を思い出しそうになったら、好きな人の顔とかかわいいペットのことなど、何かいい感情が蘇るような出来事を思い出す方法です。「ありがとう」と10回唱えて、自分に感謝の感覚を思い起こさせる方法なども有効です。とにかく嫌な記憶と嫌な感情を繰り返し思い出さないことが、ポイントです。
「許せない」のではなく「許さないことを決めている」
過つは人の性、許すは神の業
(アレキサンダー・ポープ 詩人)
交流分析の先生がこんなお話をしてくれたことがあります。
「よく人は、『あの人が許せない!』と言ったりしますが、【許せない】はありません。【許す】か【許さないか】は自分で決められることです。だから『あの人が許せない』ではなく、『私はあの人を許さないと決めている』というのが正しい表現です」と。
「許せない」と表現すると、何か外部からの強い圧力で自分で決めることができない、という受動的なものに聞こえます。でも実際は、許すも許さないも自分の心次第です。
他人から傷つけられた場合、多くの人は相手を回避するか復讐するかに分かれます。
復讐の方法には、殴ったら殴り返すというようなわかりやすいものから、自分でも気づかないうちに行われるものまであります。
例えば、「自分がこんなに不幸なのは親のせいだ」と思って被害者ポジションに入った場合、無意識に不幸な自分を維持して、親に復讐します。「あなたの教育が悪かったから私は不幸なのだ」と証明するのです。
仕事で成功したり、結婚したり、誰かに大切にされたりすると、自分が幸福になるので復讐が果たせません。だから、無意識に自分で物事がうまくいかないように壊してしまうのです。でも、これは誰も得をしない愚かな行動です。
ある研究では、他人を許しやすい人は、他人に謝れる人であることがわかっています。この人たちは、「きっと、相手にも何か事情があったのだろう」と共感的に考え、他人に協調的であろうとするため、情緒が安定して幸福感が高いというデータが出ています。
人はストレスフルな状態のとき、心の柔軟性に欠け、起きた出来事に対する適応力が低下し、怒りを抑えられなくなる傾向にあります。だから人を許そうと思ったとき、自分の状態を良くすることが不可欠なのです。