日本は輸入物価上昇によるコストプッシュが主因

次に日本の状況を詳しく見ると、インフレ率は先にも説明したように10月で3.6%です。企業の仕入れを表す企業物価は、図表1にもあるように、実は9%以上の上昇が続いています。米国と違い、日本企業は国内では、仕入れ価格の上昇を十分に最終消費財に転嫁できていない状況が続いているのです。それは、企業が損をしていることを表しています。

この話をすると、上場企業では過去最高の利益を出している企業が多くあるではないかという人がいます。確かに、例えば三菱商事は1兆円の利益を出すなど、驚くほどの利益が出ています。しかし、これらの最高益の企業の多くは、海外で稼いでいる企業がほとんどです。国内だけで事業を行っている企業、とくに中小企業では、仕入れの増加、つまりコストプッシュ型のインフレの悪い影響を受けています。

見出しに踊る「値上げ」の文字
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こういう状況ですから、十分に給与が上がる素地はなく、グローバル企業の一部をのぞき、十分な賃上げはなかなか難しい状況です。事実、現状ではインフレより低い賃金上昇しかできておらず、実質賃金は7カ月連続でマイナスです。11月はなんと前年比2.6%のマイナスとなっています。こういう状況では、GDPの55%程度を支える家計の支出が伸びるということは難しいのが現状です。

もうひとつの懸念は輸入物価の上昇です。このところは前年比で40%以上の上昇が続いています。その前年も30%程度上昇しています。上で説明したように、企業は国内では十分な価格転嫁ができないということとともに、欧米に比べて少ない消費者物価の上昇分、そして大きく上がっている企業物価の上昇分は、構造的には“海外流出”しているということになります。実際、2021年8月から貿易収支の赤字が続いており、そのせいもあり、経常収支(日本が海外との貿易や投資などでどれだけ稼いだかを示す:貿易・サービス収支、第一次所得収支、第二次取得収支の合計)の黒字額も大きく減っています。