W杯後に「日本人選手の争奪戦」が始まるか

2010年大会で名MFフランク・ランパードが放ったボールは上部のバーに直撃し、誰が何度ビデオを見返してもゴールポスト内でボールが完全に弾んでいるのだが、当時の主審はこれを「ノーゴール」と判定、歴史に残る“幻のゴール”とされる。

この経緯を知るほとんどのイングランド人は、三笘選手が拾ったボールについて「VAR導入でドイツを打ち破る結果につながった。これはカルマ(因果応報)だ」として大いに溜飲を下げたというわけだ。タブロイド紙は日本勝利翌日の夕刊でも再び「三笘のアシスト」について伝えていた。

W杯の戦績でいえば、今回もまた日本は16強止まりとはいえ、「2つの優勝経験国を撃破」と内容がまったく異なる。しかも、全体を見回せば、ドイツはもとより前回大会の決勝トーナメントの相手・ベルギーよりも上位へと勝ち進んだ。

W杯終了後の期待は、欧州における日本人選手の争奪戦だ。今回のチームは登録メンバー26人中、19人が現在欧州でプレー、しかもドイツ在籍者が8人と過去に例をみない精鋭がそろった。こうした顔ぶれに欧州の専門紙は「日本がドイツに勝ったことは意外でもなんでもない」と、快進撃を予想していたかの論評もある。

「日本の選手は飽きずに本気で練習する」

英プレミアリーグをはじめ、「日本の選手は安く獲得できる」というのが欧州クラブの見方だ。これは円安だからお得、という意味ではなく、世界的なレベルから見て日本のレベルはまだまだとされ、欧州クラブでの契約金が極めて低廉なのだ。

英国メディアは、VAR判定で一躍世界で有名になった三笘選手について「(現在所属するプレミアの)ブライトンはとても少ない契約金しか払っていない」としながらも、「現在の彼は2000万ポンド(30億円超)もらっている選手と何ら変わらない」と指摘。DF冨安健洋選手が初めてベルギーに渡った時も安い金額で契約したが、今やプレミアの名門・アーセナルの主力選手として看板を張っている――と、日本人選手の「コストパフォーマンスの良さ」を語る。

ロンドン北部、イズリントン区にあるアーセナルFCのホームスタジアム:エミレーツ・スタジアム
写真=iStock.com/Philip_Willcocks
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次に起きることは、欧州クラブから日本人選手へオファーがかかることだろう。W杯に出ている選手はすでに多くが欧州で戦っているものの、Jリーグからの「掘り出し」を狙っている雰囲気もある。

元イングランド代表のMFベッカム氏も子供の頃所属していたウェストハム・アカデミーの元監督で、現在Jリーグのテクニカルディレクターを務めるテリー・ウェストリー氏は、欧州クラブから日本人の才能についてよく質問を受けるという。「向上心のある選手を獲得できる。技術も高い。日本の若い選手は、ボールタッチの基本を鍛えろと指示されても飽きずに本気で練習する」と話すと、欧州クラブ関係者は目を見張るという。