ヤフコメが一因となった「ウトロ地区」への放火事件

さらに、コメント欄の自動非表示措置以降に、もう一つ注目を集めた事件がある。京都府宇治市の在日コリアンが多く住む「ウトロ地区」への放火事件だ。

放火事件は昨年8月に起き、今年8月末に被告の男性に懲役4年の有罪判決(確定)が出ている。男性は判決に先立ち、バズフィード京都新聞の取材に、Yahoo!ニュースのコメント欄で目にした書き込みが、事件の動機の一つになった、と語っている。

放火事件の背後には民族差別的なヘイトがあり、その起点がヤフーのコメント欄だった、ということになる。

ネットの違法・有害情報は、リアルの事件のきっかけになり、社会を揺るがす危険性を持つ。このような事態が広がると、何が起こるのか。その先例は米国にある。

ネットの有害情報は実社会をも揺るがす

2016年12月、大統領選が終わったばかりの首都ワシントンのピザ店内で銃撃事件が発生した。この店は、ネットで拡散していた陰謀論「ピザゲート」の舞台とされ、「ヒラリー・クリントン氏がかかわる児童虐待の地下組織の拠点」と喧伝されていた。事件は、この陰謀論を信じた当時28歳の男性が、自動小銃などを手に同店に押し入り、店内で発砲したというものだった。

陰謀論はネット掲示板から右派サイト、ツイッター、ユーチューブなどへと拡散し、男性はそれらを次々に目にして、のめり込んでいった。

この陰謀論のストーリーはその後、陰謀論グループ「Qアノン」で急速に拡大。2020年の米大統領選に「不正があった」との根拠のない主張とともに増幅される。そして2021年1月には、5人の死者、140人以上の負傷者を出し、約900人が逮捕された米国史上空前の連邦議会議事堂乱入事件へとつながった。

違法・有害情報の排除に向けた、プラットフォームに対する社会の要請も強まっている。

総務省の有識者会議「プラットフォームサービスに関する研究会」が、8月25日に公開した報告書の中で、違法・有害情報へのプラットフォームの取り組みの透明性・アカウンタビリティを確保する上で、「行動規範の策定及び遵守の求めや法的枠組みの導入等の行政からの一定の関与について、速やかに具体化することが必要である」と法規制を含む検討を提言している。

ヤフー広報室は「人権侵害や差別に当たる投稿、犯罪行為を一切許容しておりません」と言う。ただ、今回の携帯電話番号義務化の措置については、「特定の事象がきっかけとなっているものではありません」としている。

だが「ウトロ地区放火事件」を受けてなお、ヤフーがさらに踏み込んだ対応を取らずにいるという選択肢はなかっただろう。