「えらいものを見つけてしまった」
それほど圧倒的な調査能力を持つ税務署員でさえ想像しなかった場面に出くわしたことがあります。
税務調査当日、夫を亡くした妻が貸金庫を利用していたことがわかり、妻、税務署員、そして私の3人で銀行へ。貸金庫を開けると、帯付きの現金4000万円が出てきました。これだけの額が見つかることは滅多にありません。「えらいものを見つけてしまった」と、証拠として写真を撮る税務署員の手はブルブル震えていました。
実はこのお金は妻が父から過去に受け取った遺産であって、夫から譲り受けた財産ではありませんでした。本人も、税務調査のときは「何が悪いの?」という顔でポカーンとしていました。ただ、父の遺産だったことを証明する証拠が弱く、本当は夫の名義預金ではないかと税務署から追及を受けました。
結果はどうだったのか。貸金庫の4000万円については、なんとか父の遺産だったと認められました。実際の税務調査の現場においては、揉め続けて修正申告が行われないと税務署も困るので、どこかでは手を打つことになります。
ただし、それはあくまでも悪意なく無申告や過少申告していた場合のみ。意図的な財産隠しだと、ほかにも厳しく調べられて税金をたっぷり持っていかれます。本人が気づいていない部分があるにせよ、正直に申告することが身のためです。
(構成=村上 敬 図版作成=大橋昭一)