インボイス反対派の主張は分が悪い
SNSやYouTubeなどではしきりに「インボイス反対」の声が上がっています。声を上げているのは、課税売り上げ1000万円以内の免税事業者の人たちです。
前回の記事で、インボイス制度が始まると、インボイスを発行できない免税事業者は売り上げの本体価格に消費税を上乗せしてもらうことが難しくなると説明しました。
仮にいままで通りの価格で請求しようとすると、取引先にとっては仕入税額控除が受けられなくなるため、実質的に消費税額分だけ値上げされたのと同じことになってしまいます。それであれば同じ金額で仕入額控除が受けられる課税事業者と取引しようと考えるでしょうから、免税事業者は仕事を失う危険性があります。これを避けるためには、消費税分の値下げを受け入れるか、課税事業者になって消費税を納めるしか方法がありません。いずれにしても収入がダウンしてしまうのです。
しかも免税事業者は課税売り上げが1000万円以下の小規模事業者が中心です。古いデータになりますが、平成23年に財務省が出した資料によると、全事業者の中で免税事業者が占める割合は約6割であるにもかかわらず、売り上げ全体に占める割合はわずか1.7%にすぎません。収入は多いとは言えず、弱いものいじめだと声を上げたくなる気持ちはよくわかります。
しかし、免税事業者の方には気の毒なのですが、あまり声高に反対を唱えるのは得策ではないように思います。なぜなら、税理士として消費税の仕組みを考えるとインボイス制度のほうが正しいと言わざるを得ないからです。本来は国に納めるべき消費税を、納税が免除されているからといって免税事業者の人が懐に入れて「益税」を得ていることにはやはり問題があります。商品・製品の販売やサービス提供などの取引に対して広く公平に税を負担するという消費税の趣旨からも外れています。
インボイス反対の声で浮かびあがってしまうのは、この「益税」の存在。「なんだ、俺たちが支払った消費税をピンハネしていたのか」と得意先に反感を持たれたり、めんどくさいやつだと取引を敬遠されたりして、かえって立場が苦しくなってしまうのではないかと懸念するのです。