実際に長生きするのは「少しぽっちゃりした人」
次に、いわゆるモデル体形、腹部が前方に張り出していない体形が「健康に良い」というデータは、ほとんど存在しないということもお伝えしておきたいです。「ダイエット信仰」を煽るテレビ番組や、高値で運動器具を売りつけるテレビショッピングは、モデル体形を褒め称え、おなかの出た「メタボ体形」を蔑すみ、スタジオのタレントたちに悲鳴まで上げさせます。
ですが、実際のところ、長生きするのは「痩せすぎの人」よりも「少しぽっちゃりした人」なのです。
テレビのダイエット番組で「太りすぎ」を数値化するために、猫も杓子もBMI(体格指数)を使います。BMIは体重(kg)を身長(m)の2乗で割った数値で、WHO(世界保健機関)の区分では、18.5未満が「痩せ」。18.5以上25未満が「普通」。25以上が「肥満」で、その度合いによって1度から4度まで分類されています(1度:25以上30未満、2度:30以上35未満、3度:35以上40未満、4度:40以上)。
こうした区分の上で、たいてい「肥満」にカテゴライズされる芸能人をむりやりダイエットさせて、「普通」(18.5以上25未満)以下のモデル体形まで痩せさせる。それがテレビのやり口ですが、実際に世界各国の統計データを調べてみると、一番長生きしているのは、BMIの区分上では25以上30未満から少し上ぐらいの、おなかの出た小太り体形なのです。
この結果はアメリカ国民健康栄養調査でも、厚生労働省の補助金を受けた日本での研究でも変わりませんでした。アメリカの研究では、小太りに比べて、痩せの死亡危険率は2.5倍。日本の5万人を対象にした大規模な研究でも、もっとも長生きしていたのはBMI25以上30未満の「肥満1度」の人たちでした。つまり、モデル体形を目指すことは、健康に害なのです。
体の衰えを評価する「5つのチェックポイント」
先に述べた筋肉や聴覚の衰え、つまり「健康格差」の底に落ちていってしまいかねない人々(予備軍)を表す言葉に「フレイル」があります。この数年、マスコミなどでも取り上げられることが多くなった言葉なので、聞き覚えのある方もいらっしゃるかもしれません。
フレイルは日本老年医学会が提唱した概念で、Frailtyの邦訳です。Frailtyは「虚弱」という意味なので、一般的には「要介護の手前の状態」というイメージでしょう。もう少し詳しく説明すると、専門家はフレイルを5つのチェックポイント(順不同)で評価しています(※2)。
②意欲(活動性)の低下
③疲労感の増加
④歩行の異常(速く歩くことができなくなる
⑤体重の減少
この5つのチェックポイントがいずれも当てはまらない人を「ロバスト」と呼びます。「健康に問題のない高齢者」という意味です。当てはまるチェックポイントが2つ以下の人は「プレフレイル」。このまま手をこまねいているとフレイルになってしまう可能性が高い「フレイルの前段階の高齢者」という意味です。
そして、3つ以上が当てはまる人は、フレイル。フレイルの先には「要介護状態」が待っているのです(図表1参照)。しかし、フレイルは心がけしだいで健康状態に戻れる状態でもあります。