テレビの問題点は「人を座らせたままにする」こと

ただ一点、収入格差と健康格差には大きな性質の違いもあります。

社会経験をもつ読者の皆さんには自明のことと思いますが、収入のギャップは「個人の努力」だけでは埋められません。貨幣経済は偏差(不平等性)によって成り立っているので、どれだけ一所懸命に努力しても、皆がお金持ちになれるわけではないのです。

しかし、幸いなことに、健康格差のギャップは違います。健康格差は、個人の努力や生き方によって幅はありますが、基本的には、ほぼ全員の人がそのギャップを努力で埋めることができます。ところが世の中には、その努力、あるいはちょっとした生活の変化を、皆から遠ざけるよう、遠ざけるよう刷り込んでくる邪悪な洗脳装置があるのです。

テレビの第一の悪は、人を座らせたままにすることです。ビジネスマン向けの週刊誌やウェブサイトではしばしば、デスクワークの弊害が指摘されています。またシドニー大学が過去に行った調査によれば、日本人は世界でもっとも長い時間、椅子に座って過ごしている人々であるそうです(※1)

ソファに座っているシニアマンのクローズアップテレビリモコン
写真=iStock.com/monkeybusinessimages
※写真はイメージです

そのような指摘を前提にして、雑誌やウェブ記事では、デスクワークの隙間に行うことのできる体操や、歩幅を大きくして歩くことなどを勧めるわけですが、動くことが求められるのは、ビジネスマンに限りません。むしろビジネスマンよりも高齢者のほうが、部屋に閉じこもらずに、外に出て身体を動かすべきなのですが、テレビはこう囁いてくるのです。

「あなたは動かずに、じっと画面を眺めて楽しんでください。これから、タレントが町に出て、綺麗な景色や田園地帯を案内して回りますよ。美味しい料理も観られますよ。楽しいでしょう」と。

しかし、観るだけでは意味がないのです。人が動いているところを眺めても、自分が動いたことにはなりません。それは、ただ座っているのと同じです。

(※1)BISINESSINSIDERJAPAN 2017年10月20日

座り続けていると「エコノミークラス症候群」を発症する可能性も

人体を構成する筋肉の多くは、下半身についています。私たちがもつ、もっとも大きな筋肉は足の太腿(大腿四頭筋)ですし、ふくらはぎは「第2の心臓」と呼ばれるほど重要な部位です。テレビをダラダラと観るためにずっと座っていると、下半身の血行が悪くなります。それが極端に悪化すると、俗にいう「エコノミークラス症候群」を発症することになってしまいます。

長時間にわたって血流が停滞した結果、血栓を生じ、それが肺の静脈に詰まると重症化し、死に至るケースもあります。「エコノミークラス症候群」という俗名がついていますが、同様の症状は、飛行機ではなく自宅でも起こりうるのです。予防として、テレビを観る時間を区切り、軽い体操やストレッチ運動をしましょう。足の指を動かしたり、足首を回したり、ふくらはぎを軽くもんだりすることが効果的です。こまめに水分もとるようにしましょう。