各社で始まったばかりのグローバル人材の育成や新興国での研修制度などもそのひとつだが、小守谷氏は「日本企業としての強み」として次の点を挙げる。

「日本企業が長年培ってきた信頼関係があります。顧客との関係、現地社員との関係をこれからもどれだけ醸成していけるか。日々のビジネスの中で勝ち負けはあるけれど、お客様との長期的な信頼関係をきちんと保っていけるかどうかが、生き残りの道だと思います」

パナソニックの渡邉直樹氏も「これからは机を叩いて値切って取引する時代ではありません。一緒に知恵を絞り、ともに繁栄していく道を模索しなければならない。そうしたとき、真面目さやチームワークなどの伝統が日本人のよさ。一つひとつ信頼関係を築き上げていくことが最終的な勝ちにつながる」と語る。

機敏で小回りの利く海外企業が多い中で日本企業が自国の利点を生かしつつ、グローバルで勝ち抜いていけるかどうかは未知数だ。だが日本経団連のアンケートによれば、日本企業は今後の5年間で、海外売上比率を大幅に高める傾向であり、海外売上目標が5割を超える企業は3割強に上る見通しだという。

結局、グローバル市場で利益を上げていくことが、日本国内市場にも活力や活気をもたらすことにつながり、日本人一人ひとりが生き残っていく術を模索するきっかけにもつながるのではないか。本社機能の移転は日本からの逃亡ではなく、日本を活性化させるための数少ない選択肢なのだ。

空洞化については、政府主導のもとに円高やFTAなどの通商対策でしかるべき防止策をとっていくべきだと思う。しかし、モノづくりの拠点が国外に出ていく流れは加速することはあっても、止まることはないだろう。製造業にかかわらず、「わが社は海外進出していないから関係ない話だ」といった考えでは、もはや多くの人が生き残っていけないのではないか。どんな企業でも、すでにどこかで世界とつながっているのだから。

本気でその国でビジネスをし、利益を獲得しようという気概があるかどうか。そこに成功のカギが隠されているような気がする。本社の大移動は始まったばかりだが、「待ったなし」の状況が、もうすぐそこまで迫ってきているのだ。

※すべて雑誌掲載当時

(永井 浩=撮影)