「現地に住み、現地の人々と同じものを食べ、同じ空気を吸う。それが、実は今回のグローバルシフトの最大のポイントではないかと思っているのです」
パナソニック調達本部審議役の渡邉直樹氏は笑顔でこう語り始めた。
日本を捨てて海外へ行くのか――。2011年の移転発表後はそんな不安含みの憶測も飛んだ。しかし、同社で本社機能移転の話が持ち上がったのは2年前の10年のことだ。
直接のきっかけは2つある。1つ目は海外での調達比率が年々高まり、生産も海外にシフトしていることだ。海外調達比率は09年が43%、10年が53%、11年が57%となり、12年には60%に到達すると予測。海外が調達の主軸となり、販売先も海外が中心なので必然的に本社機能も移転するというもの。
2つ目はグローバル調達・物流の一元化を図るためだ。従来、同社内にはドメイン(社内分社)に部材を提供していたトレーディング社のほか、部材、原材料の集中契約に調達本部で取り組んできたが、いずれもトレーディング機能のみ、集中契約のみにとどまっていた。そこで両者をグローバル調達として統一して機能を強化させることになった。そのため、10年1月に専門のプロキュアメント社(以下プロ社)を設立した。
プロ社社長の松本誓之氏は「グローバルの貿易知識、物流知識を持ってひとつの組織となり、全社への貢献に努めていきたい」と意気込みを語る。10~12年で調達分野において約1.5兆円のコストカットを図り、原価低減を進めている。特に電気電子部品に最大限汎用性を持たせることを目指す。
しかし、社内で心配する声がないわけではなかった。
「発想がどうしても日本人的になってしまう。海外からモノを見ること自体に意味があるのだと言っても、受け入れられない人もいました」(松本氏)
松本氏自身はアメリカでのビジネス経験が長く、海外から日本を見ることや、海外企業の考え方を理解する習慣がついている。しかし一般的な日本人からは「どうして本社まで海外に移す必要があるのか」「日本が空洞化するのではないか」といったネガティブな意見、報道もあった。それでなくともリストラに脅える社員であればなおさらだろう。だから、「社員にはできるだけ丁寧に説明するよう心がけた」(松本氏)。