小さな力を合わせれば、山のような成果が上がる
この文は、空海が、高野山に仏塔を建立するために「釘一本でいいから喜捨してほしい」としたためた嘆願書の中にある一文です。
一粒の塵のような土や石が集まってそびえ立つ山となり、一滴のしずくが広く深い海をつくる。人も、同じ志を持って心を合わせれば大事業を成し遂げられる。
彼は、「ひとりひとりの力は小さくても、皆が心をひとつにして協力すれば大きな結果を残せる」と訴えました。その結果、多くの喜捨を集め、無事に立派な仏塔が建てられたのです。
現代においても、他者と力を合わせ、知恵を出し合っていくことを抜きにして、何事かを実現していくのは難しいでしょう。
誰もが、見知らぬ誰かを支えている存在
もとより私たちは、他人の力を借りなければ一日たりとて生きていくことはできません。この社会は、それぞれの人々がいとなむ仕事と、そこから生まれる縁によって成立しています。同時に、私たち自身もまた、見知らぬ誰かの役に立っています。
ただ、お金さえあればどんなサービスや商品も手軽に手に入る現代では、ひとりひとりの力を実感する場面は少なくなりました。共同体のつながりが薄れた今、人と協力し合って何かを成し遂げる機会はなおさらです。
しかし、考えてみてください。この国では、ひとたび災害が起これば、あらゆるところに募金箱が設置され、多くの寄付が寄せられます。またボランティアが手を挙げ、被災地を支えます。そうやって、「一粒の塵」ができることを持ち寄って、助け合っているのです。
世界がその正確さに驚く鉄道ダイヤが機能しているのも、持ち場でそれぞれの職務を果たす職員、整然と乗降するひとりひとりの乗客のマナーの賜物です。
おのおのの力は小さくともそれが集まれば、個人の力を超えた大きな成果が上げられます。空海は、峻厳な山々や大海原といった大自然の姿の中に、その真理を見出したのです。
利他の精神から行われた土木事業
空海は、唐から土木技術も持ち帰り、人々に尽くしました。香川県には、空海が、のべ三八万人以上もの人を指揮して改修工事を行った日本最大級の「満濃池」という溜池があります。これによってたびたび起きていた水害から、多くの人が守られました。空海が熱意を持って土木事業に取り組んだ根底には、「人々を救いたい」という利他の精神があったのです。