会社の銀行通帳の残高を見て、ため息をつく日々

しかし人生は甘くない。先行投資型のモデル事業なので、どんどんキャッシュは減っていく。会社の通帳の残高を見て、「ウッ……」と絶句することもあったそうだ。資金調達に走ったが、そう簡単に事は進まない。資金が尽きそうになり、いよいよ会社が危ないとなった時に明るいニュースがSEAMを包んだ。2022年6月には、さらに6350万円もの第三者割り当て増資が可能になった。

「毎日お金の心配をしている身としては、本当にホッとしました。それまで『倒産するかも』と心配で眠れなくなることもあったので……。でも、非科学的なんですけど、『大丈夫、JUST DO ITだ』と常に思っていたのが、功を奏したのかも(笑)。こんなふうに弱気になることもあるけれど、会社のメンバーが『石根さんは前だけを見てください。実務は僕たちがやりますから』といって励ましてくれて、勇気をもらっています」

社員は石根さん含めて4人。ほか専門分野別に10人ほどの外部協力体制を敷く。
写真提供=SEAM
社員は石根さん含めて3人。ほか専門分野別に6人ほどの外部協力体制を敷く。

励ましてくれるのは、スタッフだけではない。プライベートでは5歳になった娘が「ママのお酒をたくさん売って、マンションを買ってね!」「ママの会社を継ぐよ!」などと、かわいいエールをくれる。夜や週末は娘との時間を確保するために、家事は手を抜き、仕事はなるべくしない。1日24時間しかないのが悔しいと思うほど多忙を極めるが、仕事への情熱はますます燃え盛るばかり。

「グローバルでは、確実に低アルコールの波が来ています。円安の現在では厳しい状況ですが、将来的には海外展開、そしてクラフトカクテル以外のアルコールの展開も考えています」とどこまでもポジティブだ。

父の墓前にコヨイを供えて、誓いを新たに

亡くなった父の墓前には「今、こういうのをつくっているんだよ」と、コヨイを供えた。まだ成功というレベルには遠いが、リリースから1年経ち、発売当時と比較して売り上げは300%伸びた。

koyoiギフトボックス(3本入り)
写真提供=SEAM
koyoiギフトボックス(3本入り)

「どんなに苦しくてもやめないこと。やり続けるには心が折れないこと」をポリシーに、メジャーリーガーの大谷翔平選手もやっているという曼荼羅まんだらチャート(目標達成シート)を作った。「自分のやりたいこと、やるべきこと」を毎朝つぶやくのが日課でもある。

そして「父が生きていたときにコヨイがあれば少し結果が変わっていたかもしれない。たくさんの人に心身に無理なく、お酒を楽しんでもらいたい」と、改めて思いを強くするのだった。

(構成・文=東野りか)
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