ロレンス問題とネットワーク社会は同根を有している

【宇野】僕は『母性のディストピア』(集英社、2017年)を書き終えた頃から、ロレンスと〈外部〉について書くことを具体的に考えはじめました。それは2016年の問題、ブレグジットとトランプという2つの現象があったからですね。これはインターネットが無限の〈外部〉を生み出すものではなくなった、むしろ〈外部〉を消失させてしまったことの象徴だと感じました。

インターネットはもともとは資本主義の外側へ脱出を試みたヒッピーの遺伝子が、シリコンバレーで隔世遺伝して出現した側面があるのだけれど、それが資本主義と悪魔合体して市場を牽引することで、逆に世界を閉じた場所にしてしまった。性急に〈外部〉を求めた結果、かえって世界から〈外部〉を消失させてしまったわけです。

【吉田】皮肉な展開ですね。

【宇野】そういうシリコンバレー的な問題とロレンスの問題はどこかでつながっていると思えたんです。さらにコロナ・ショックで、人間が情報ネットワークに、とくにSNSがつくり出す相互評価のゲームに閉じ込められた。

【吉田】相互評価のネットワークから〈外部〉へ出るにはどうすればいいかと。

「オンラインイベント症候群」で馬鹿になっていく

【宇野】いま、いちばん簡単に承認を獲得する方法は、集団リンチに遭っている誰かを見つけてその人に自分も石を投げると、敵の敵は味方だという論理で一定数の人から承認される。どこかにダメな奴がいて、そいつを叩くと安全に気持ちよくなれるし、「まとも」な側として認められることを経験的にみんな覚えてしまっているわけです。

この影響は言論ジャーナリズムにも影響していて、成り上がりたい若い者から、いい歳をして鳴かず飛ばずの書き手まで、そうやってアテンションを集めるのが生き残り策になってしまっているし、大手のメディアから独立系のプラットフォームまで、基本的に敵をつくって欠席裁判をしてコメント欄の観客と一緒に盛り上がるいじめショーで食べているわけです。

僕は「オンラインイベント症候群」と呼んでいますが、これをやっているとどんどん話者も観客も、場の空気を読んで叩きやすい人に石を投げる嗅覚以外は使わなくなっていくのでどんどん馬鹿になっていくし、自浄作用が働かないのでデマやハラスメントの温床になってしまう。

その場にいない人間の悪口をいうことでメンバーシップを固め、観客を囲い込むようなビジネスの限界ですね。