食事の回数は適量を複数回に

これは摂食行動の話になりますが、犬を初めて飼ったとき、食べ物をいくらでも欲しがることに驚いた人もいるのではないでしょうか。

犬は食べ物をほとんど一気食いしてしまい、出されたものはいくらでも食べてしまう傾向があります。

これは犬が特別“食い意地が張っている”というわけではありません。犬は、人や他の動物ほど脳の満腹中枢が機能していないため、「満腹感を感じにくい」という特徴があるのです。そして一度にたくさん食べるよりも、食べる回数が増えるほうが犬はよろこぶのです。

そのため、しつけやトレーニングの際のごほうび(トリーツ)として、好きな食べ物を何度でも与えることが有効な方法になってきます。

犬の訓練
写真=iStock.com/Maria Levkina
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ところが、しつけ教室などでたまにいらっしゃるのは、「食べ物で釣るなんて、浅ましくていやだ」という飼い主さんです。ごほうびに「おやつ」をあげてトレーニングすることを頑なに拒否する飼い主さんもいます。

それは「人間の物差し」でしか考えられない方なのです。

しょっちゅう食べてばかりいるとか、もらうだけ食べるのが“浅ましい”とか“意地汚い”と感じるのは人間だけです。動物にとって食べ物を見つければ口にするのは別に浅ましいことではないし、食べたばかりでも、もらったらまた食べるのは犬の本能なのです。

満腹中枢がほとんど機能していないということは、脳が「もう十分だ」という指令を出さないということ。だから犬は「もうけっこう」なんて遠慮はしないし、あげたらあげるだけ食べるのが普通なのです。

野生ではいつ食べ物にありつけるかわからないので、いまある食べ物を一気に丸呑みし、大量にお腹にため込もうとしていました。その名残で、犬はごはんをあげるとほとんど噛まずに呑み込むようにして食べます。

猫はごはんを少し残したり、数度に分けて食べることが多いのですが、犬は出されたものを一気に食べてしまいます。そのため、留守番させるときなど、器に食べ物を出しておくと一度で全部食べてしまうので、自動給餌きゅうじ器を利用したり、遊びながら食べ物が得られるおもちゃ(コングなど)を与えるなどの工夫が必要になります。

動物を飼うことには向いていない人の特徴

ここまで述べたように、人間と犬は感覚や脳の働きが大きく異なります。

そこを理解せずに、犬をまるで同居人のように擬人化して、人の感覚や「人間の物差し」で行動を判断してしまうと、さまざまな誤解や人の勝手な思い込みを生んでしまいます。

大事なのは、人間側の一方的な思いや価値観だけで犬の行動を見ないことです。

こうしてほしいのに、なぜできないの?
何度も教えているのに、なぜ覚えないの?

犬と暮らしていれば、そのような不満が生じるのは当たり前なのです。

人間側の都合ばかり押し付けたい人は、はっきり言って動物を飼うことには向いていません。

犬はあくまで動物で、人と同じような考え方や行動はしません。

人間の価値観や常識(=人間の物差し)で犬の行動を見てしまうのもやはり間違っています。

あらためてその点を認識し、犬の特性を尊重する姿勢を持てば、しつけやトレーニングをする際にもよけいな悩みが減ってくると思います。