人にいやがらせをすることはない

そうした脳の働きをふまえて、犬の行動や認知能力を見ていくと、次のような特徴があることがわかってきます。

感情をコントロールすることが苦手

犬は、高ぶった気持ちを自分で落ち着かせたり、がまんするなど、情動・感情のコントロールが苦手です。

善悪の判断はしないし、人社会のルールも理解できない

人間のモラルや道徳観とは無縁なので、自分の行為の善悪の判断をしません。基本、人の都合にはおかまいなしです。人社会のルールをそのまま押し付けようとしても、守るべき理由を理解できません。

先のことを予測して考えることができない

これをやったらどうなるか、という先のことを考えることができません。たとえば、子ども用のぬいぐるみの腕を噛んで振り回したら、腕が取れてボロボロになる……といった行動の先の結果を予測することはしないし、できないのです。

短期記憶は10秒程度で消えることも

記憶には短期記憶と長期記憶がありますが、犬の短期記憶は30秒〜120秒程度とされ、10秒程度で消えてしまうこともあります。さっきやったばかりのこともすぐ忘れて、また同じことをやるということが起こります。

人にいやがらせをすることはない

飼い主に対してわざといやがらせをすることはありません。相手を困らせて喜ぶという発想も想像力も持たないし、犬にそういう概念はないのです。

人がいやがることかどうかの判断もできません。してほしくないところへ排泄するケースも、犬に「おしっこやうんちは汚い」という衛生観念はないので、「これで人を困らせてやれ」と意図することはあり得ないのです。したがって、叱られた腹いせでわざとおしっこをするようなことはありません。

叱られても反省することはない

ほめことば/叱りことばだけかけても理解しない

「いい子だね」とか「いけない・ダメ」ということばだけを聞いて、自分はほめられたとか叱られたとかは理解できません。ことばだけではなく、ことばプラスいい結果(ごほうびがもらえる)、または悪い結果(リードを強く引かれるなど)と結び付くことで、自分の行為が肯定されたのか否定されたのかを覚えていきます。

叱られても反省はしません

「うちのワンちゃんは叱るとシュンとなって反省のポーズをします」という飼い主さんがいますが、犬は叱られても反省はしません。

なぜ悪いことなのかを理解しないし、やったことを後悔もしません。叱られておとなしくなるのは、飼い主さんが怖くて萎縮しているだけなのです。これはいくつかの実験でも明らかにされています。

叱られると目をそらしたりするのは、犬の目をじっと見て強い調子でしゃべる飼い主にケンカや闘いの前ぶれを感じ、目をそらすことで「自分は闘いモードではありません」という意志を示しているのです。

うなだれたり、体を縮めて“反省のポーズ”をしているように見えても、飼い主のふだんと違う態度に怯えて、「早くこの恐怖から抜け出したい、早くこのつらい時間が終わればいい」と思っているだけのことがほとんどです。