69歳でノジマへ。決め手になった面接官の一言
ラオックスの経営が悪化して退店が決まったとき、熊谷さんは69歳になっていた。当初、閉鎖する郊外の15店舗を社員ごとノジマが引き継ぐことになっていたが、この計画はとん挫してしまう。熊谷さんは仕事を失う危機にさらされたが、川口キャラのケースでは、ラオックスから店舗の譲渡を受けるのではなく、ノジマが家主(川口キャラ)から従業員ごと店舗を買い取る「居抜き」の形で決着している。
「ノジマの方が面接をしてくれたんですが、さすがに69歳じゃダメかなと思いました。69歳で改めて採用してくれるところもないでしょうから、もう仕事はなくなるのかなーと思っていたら、『やる気があるなら大丈夫ですよ』って言ってくれて、嬉しくなっちゃってね」
夫の介護に悩んだとき、病院の先生がくれた言葉
以来、半年ほど休んだ時期を除いて、熊谷さんは10年以上ノジマで働き続けているわけだが、波風がなかったわけではない。ノジマで働き始めてしばらくたった頃、夫が認知症を発症してしまったのだ。週に3日ほどデイサービスに通わせることにしたものの、夫の介護と仕事の両立は難しかった。
「仕事をどうしようかってさんざん考えたんですが、行きつけの病院の先生が、『自分のためにも仕事を続けた方がいいよ』って言ってくれたんです。ご覧の通り、仕事は嫌いじゃないし、1日じゅう叫んだり暴れたりする人と向き合っているのは、すごく大変なことなんですよ」
熊谷さんは、ノジマの仕事を続ける決心を固めた。岩手の呉服店時代、仕事は熊谷さんを外に連れ出してくれるものだったが、今度は、たとえ一時でも、夫の認知症の介護から熊谷さんを解放してくれるものだった。
昭和12年生まれの夫は、7年間認知症を患って79歳で亡くなった。表現は悪いかもしれないが、熊谷さんに、ようやく自由な時間が訪れた。
9時から15時まで、週4勤務で品出しを担当
熊谷さんはいま、ノジマでセンター便の仕分けと品出しを担当している。勤務は週4日で9時から15時まで。
センター便とは、配送センターから川口前川店に毎日商品を送り届けてくる、定期便のことだ。熊谷さんはセンター便に載っている大量の商品をジャンルごとに仕分けして、陳列棚に並べたり、什器の下に在庫として収納したりする。
家電量販店が扱う商品は、パソコン関係の細かな部品まで含めると数千から数万アイテムにも及ぶ。それぞれがどの場所に陳列してあるかが頭に入っていないと、品出し作業はできない。ラオックス時代を含めれば、25年間も同じ店舗で働いている熊谷さんだからこそできる仕事なのだ。さすがに冷蔵庫の品出しは若い社員がやってくれるそうだが、電子レンジぐらいのサイズならひとりで運んでしまう。
孫ほど年の離れた店長の安藤慎二さん(38)が言う。
「品出しってすごく大変なんで、熊谷さんには縁の下の力持ちとしてしっかり戦力になってもらっています。ノジマって20代後半ぐらいの若い社員が多いんですが、熊谷さんはラッピングも得意なので、若い社員が教えてもらったりしていますね。(高齢だからといって)やりにくいことはないですよ。明るい人だし、みんなが声をかけやすい人柄だし、なんでも快く引き受けてくれますからね」