自民党・JA・農水省の「農政トライアングル」

農林水産省も、本音では、減反がなくなり米価が下がって零細な農家が農業をやめるのは好ましくない。農業界の政治力がなくなれば、財務省に予算を要求できなくなる。予算が獲得できなければ、天下りに影響する。

では、既得権益を離れ、まっとうな意見を述べるグループはいないのか?

1961年に農業基本法を作った際には、農林漁業基本問題調査会という総理の諮問機関(審議会)で真剣な議論が行われた。会長は、シュンペーターの高弟である東畑精一・東京大学教授だった。役所側の同調査会事務局長には、後に16年間政府税制調査会会長を務め「ミスター税調」と呼ばれた小倉武一・前食糧庁長官が就任した。東畑、小倉という、当時の学界、官界を代表する最高の人材が基本法の検討に当たった。彼らは、政治家や既得権者の意見は無視して議論した。当時、経済学は、まさに「経世済民」の学問だった。

今でも、食料・農業・農村基本法に基づく審議会はある。会長は経済学者である。同法の見直しも、この審議会で行われる。しかし、この審議会が減反・高米価政策に異を唱えたことは、これまで一度もなかった。自民党農林族議員・JA農協・農林水産省の農政トライアングルが決めた政策を、そのまま了承してきたのである。

国民にとって最悪の減反政策が続いていく

理由は簡単である。

政府の審議会の委員になることは、大学内の出世のための大きな評価材料となる。会長ともなれば、なおさらである。農政トライアングルが決めた政策に反論したりすると、委員に再任されなくなる。農林水産省サイドからすると、政府与党が決めた政策に異論を出すような筋の通った人はそもそも任命しない。審議会は政府にお墨付きを与えるだけの中身のない機関となっている。

こうして経済学の費用便益分析をすれば、だれが考えても国民の経済厚生の観点からは最悪の減反政策が、半永久的に続く。

減反政策は50年以上も続いている。悲しいことに、学界にも、官界にも、東畑や小倉はいない。国民のためなら、むしろ大学経済学部の1年生を委員・会長に任命した方がよいと思うが、どうだろうか?

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