また、NHKのネット業務を放送と同様の「本来業務」に格上げし「ネット受信料」を導入する議論が本格化するタイミングにも重なった。「ネットの本来業務化」というNHKの野望を「人質」にとられ、値下げを迫られたようにも映る。
結果として、NHKは、「地上」も「衛星」並みの値下げに踏み切れたのだから、その気があれば、当初から自らの意思で断行することができたはず。身を切る主体的な値下げだったら、「NHKの英断」との声も上がっただろう。
同じ結果でも、政府・自民党に押し切られて、いやいや値下げしたというのでは、国民に与える印象は大違いだ。
大幅値下げを決断したのに歓迎されないNHKには忸怩たる思いが残るだろうが、失態と言うほかはない。
4回目にして過去最大の値下げ
今回の値下げは、20年10月以来3年ぶりで4回目(19年の消費増税分の据え置きを含む)。
現行の月額受信料は、「衛星」が2170円、「地上」が1225円(いずれも口座振替・クレジット払いの場合)。値下げ後は、「衛星」が220円安くなって1950円(10.1%減)。「地上」は、125円引き下げて1100円(10.2%減)になる。下げ幅は、いずれも過去最大だ。
22年3月末の契約数は4155万件。このうち、「衛星」は2203万件で52.9%、「地上」は1952万件で47%になる。
原資には、企業の内部留保にあたる繰越剰余金2231億円(21年3月末)のうち約1500億円を充てる。値下げを実施する23年度は450億円程度の減収を見込み、しばらく赤字が続いた後、27年度には収支均衡を目指すという。
値下げ案を盛り込んだ21~23年度の中期経営計画の修正案は10月11日、経営委員会で大筋了承された。パブリックコメントを実施したうえで、経営委員会の正式な議決を経て、年明けの通常国会で23年度予算案とともに承認されれば正式に決定する。
元手は2000億円超にのぼる「受信料の剰余金」
受信料の値下げをめぐっては、最終的に決着するまで二転三転した。
NHKが20年8月に公表した21~23年度の中期経営計画案では、値下げ直前だったこともあり、3カ年は据え置く方針を示していた。テレビ離れの進行や世帯数の減少で、受信料収入が先細りになるとの見立てもあった。
ところが21年1月、当時の菅義偉首相が施政方針演説で「月額で1割を超える思い切った受信料の引き下げ」を宣言、武田良太総務相に受信料見直しに取り組むよう指示し、NHKに強く働きかけた。
NHKは利益を上げる必要がない特殊法人であるにもかかわらず、受信契約数の増大に伴い繰越剰余金が膨らみ続けていた。18年度末の1161億円が、21年度末には2231億円に急増し、視聴者への還元を求める声が高まっていた。