こうした動きを受けて、NHKも、割高感があった「衛星」について1割程度の値下げを目指す方針を表明。21年1月に決定した中期経営計画で、一転して23年度中の値下げを明記、原資を受信料収入(21年度6800億円)の約1割に相当する700億円程度とし、「衛星」のみの値下げに向けて検討を進めることになった。
そして、前田晃伸会長が10月6日、「衛星」について「優先して下げさせていただきたい」と言明。経営委員会に、予定通り「衛星」の値下げを盛り込んだ中期経営計画の修正案を提出する段取りを整えた。
NHKは「衛星」だけの予定だったが…
ところが、ここから事態が動いた。
「衛星」の値下げだけでは、契約者の半分しか恩恵を受けられない。しかも、繰越剰余金は、まだ余裕がある。
そこで、自民党サイドから、菅・前首相とともに、武田・元総務相や佐藤勉・元総務相ら歴代総務相が口をそろえて「国民に還元すべきだ」と大合唱。経済対策の面からも、大幅値下げは必須と詰め寄った。政府も、監督官庁である総務省が続いたという。
契約全体の半分近くを占める「地上」も、「衛星」と同じように1割程度値下げすれば、国民のほとんどが値下げを享受できるというのである。
土壇場での政府・自民党が一体となった大攻勢に、NHKも突っ張り続けることができず、ついに「地上」の大幅値下げを受け入れ、中期経営計画を再び修正して経営委員会に提出した。
原資は当初予定した700億円が1500億円規模に倍増し、当面の受信料収入が落ち込むのも確実な見通しだが、経営委員会の森下俊三委員長は「受信料収入の減少に伴う営業経費の削減など経営計画の議論を進めてもらうことを条件に大筋で了承した」と、政府・自民党の“横やり”を支持した。
中期経営計画の再修正案を提出後、前田会長は「一連の経営改革で値下げの原資を確保することができ、衛星だけでなく地上波まで下げることができるようになった。物価高が続く中、少しでも視聴者の負担軽減につながればと、さらに踏み込んだ還元策にした」と苦しい説明をするしかなかった。
値下げはまだまだできる
3年前の値下げは、「衛星」が月額60円、「地上」は同35円とスズメの涙で、「値下げの実感がほとんどない」と不評だったが、今回は、多少なりとも国民に好感をもって受け止められるかもしれない。
しかし、繰越剰余金は、まだ残っている。
寺田稔総務相はすかさず、「これで打ち止めと考えていない。効率的な運営ができれば値下げの財源も膨らむので、引き続き改革を進めてほしい」と注文。「業務のスリム化や経費削減、受信料引き下げ、そしてガバナンス強化の『三位一体改革』は、すべてやらないといけない」と力を込めた。