強烈なインパクトを残した「亀の前」とはどんな女性だったのか
NHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」の登場人物として、最近、新キャラクターが登場してきました。演技派女優として名高い江口のりこさんが演じる、「亀」です。
この亀とは、どのような女性だったのか。鎌倉時代の文献をひもときながら、迫ってみたいと思います。なおドラマと異なり、史料には「亀の前」と記されているので、本稿もそれにならいます。
ドラマにおいて、石橋山の戦い(1180年8月)に敗れて、安房国(今の千葉県南部)に避難している時に、源頼朝と漁師の妻・亀の前は出会ったように描かれていました。
人妻でありながら、頼朝と一夜を過ごした亀の前。彼女の夫の漁師とその仲間たちが「亀はどこだ!」と殴り込んでくるのですが、頼朝は事前にそれを知り、隠れる。
同時に、平家方の豪族・長狭常伴も、頼朝の宿泊所を襲撃しようとしていたのですが、漁師の集団とかちあってしまう。乱闘の最中に、頼朝は難を逃れることができた……との展開でした。
史実にはない創作されたシーン
家臣(山本耕史さん演じる三浦義村)が頼朝に「敵の大将(つまり長狭氏)も討ち取ってきます」と告げた時、亀の前が「自分の夫もついでに殺してきて」と言い放ったことは印象的でした。私は「性格悪っ」と思ったものです。
長狭常伴が頼朝を襲撃しようとしたこと、三浦氏が長狭氏を撃退したことは事実ですが、亀の前とのなれそめなどは全て創作です。
まず、二人は、頼朝が安房国に避難している時に出会ってはいません。
『吾妻鏡』(鎌倉時代後期に編纂された歴史書)によると、頼朝が伊豆に流罪になっていた頃からの知り合いだったようです。
余談ですが、頼朝は流人時代に、伊東祐親の娘(八重姫)、北条政子、そして亀の前と、数々の女性と恋愛関係にあったのです。これだけでも、流罪にあっていた頼朝が、かなり自由な立場にあったことが分かります。