バフェットのタンガロイへの投資スタイル
私たちタンガロイがIMCの子会社となった当時は、バフェットさんがIMCの大株主であるということは全く話題になっていませんでした。
バフェットさんはよく言われるように、長期投資が基本のスタイルです。一度投資をすると、ほとんど手放すことはありません。そして、株主と会社はあくまでパートナーという考え方。ですから、その経営者に任せられるかどうかということを確認したら、その後は期待通りの数字が出ているかをチェックするだけで、経営のやり方に口を出すことは一切ありません。
現在のタンガロイの本社は福島県いわき市です。ここにはもともとタンガロイの工場があり、建てたのは実はもう20年も前のことになります。もともとメーンの工場は神奈川県の川崎にあったのですが、段々開発が進んで市街地になってきたので、工場としての立地に向かなくなってきました。その後、事業拡大して山梨県やトヨタのある愛知県などにも工場をつくりました。工作機械メーカーさんのメッカですので、なるべくお客様の側で質の高いサービスができるように、という目的だったのですが、工場が分散することによって、少しずつではありますが、生産性の効率が低下してきました。そこで、生産設備をもう一度集約して、生産効率の向上を図ってみよう。これが、新工場を建設し、本社を川崎から福島に移した一番大きな理由です。
実は、本社の移転、そして製造能力の増強のための投資を決めたのは09年の前半、つまりリーマンショックの後です。当時はみんな投資を控え、慎重に判断をしているところでした。そんなタイミングで事業拡張の計画を始めたものですから、「タンガロイは気でも狂ったのか」と言われたり、地元の方にも「なんで今いわき市に移すのですか」と驚かれたりもしました。
タンガロイが、IMCの傘下に入った数カ月後に、新工場建設の打診をIMCに申し出ました。バフェットさんは「タンガロイは宝の山、古い設備をIMC流に切り替えられればもっと利益が出る」とおっしゃってくださって、すぐにIMCからゴーサインをもらいました。打診をしてから決定までの決断の早さにはとても驚きました。
たとえば、業界で私たちの商品のシェアが12%くらいだとします。現状のシェアはまだまだ低いですが、裏を返せば88%は成長できる可能性があるわけです。もちろん、競合他社との熾烈な争いの後になりますが、論理的に言えば私たちが成長する余地はまだまだ残されている。それがIMCグループの考え方です。その考え方が、もともと成長戦略を考えていたタンガロイとリンクしました。その結果が本社の移転と投資に繋がりました。
私が入社した当時は、先ほどお話しした神奈川県の川崎が本社で、経営トップから製造工場までが上から下まで全部セットになっている会社でした。それが事業の拡大によって、あちこちに段々と分散していく。その過程をこの目で見てきました。それをわざわざもう一度ひとつに集めるということになります。