現在の日本でメーカーが評価されるのは、どこまでトヨタ式生産方式が徹底されているかに尽きます。つまり在庫であったり、中間在庫を多めに持つということは、そういった方面からの評価基準に反する経営プランになってしまいます。

先ほどお話ししたように、私たちの製品はほとんど陳腐化もせず、在庫自体が現金に近い価値を維持できます。なおかつタンガロイ製品は生産材ですから、この製品を使って生産をされるお客様がいるわけです。そういったお客様は、常に私たちの製品を持っていてスタンバイしているわけではなく、注文をもらって、そこではじめて、必要な生産材を集めて、仕事をして、完成させ、届けるというサイクルになるのです。

そうすると、お客様が「欲しい」と言われたときに即お納めする、ということがビジネス上、一番重要なポイントになります。ですから、在庫をあえて少し多めに持っていることが、お客様への納期を少しでも短くすることに繋がります。それが非常に価値の高いサービスになるのです。私たちタンガロイは、非上場企業という立場になったおかげで、アナリストや銀行の評価を気にする必要がなくなり、今までと違う大胆な経営方式をとれるようになったのです。今の私たちにとって、大切なのは、市場の評価ではなく、お客様の評価なのです。

もちろんジャストインタイム方式そのものを否定しているわけではありません。生産に入る段取りの準備期間を短くしたりですとか、工場の整理整頓など、ジャストインタイム方式の考え方の基本は同じです。ただ、在庫をなるべく持たないようにしたり、中間仕掛かりを持たないようにしたりするところの、やり方が違う。違いといえばその部分だけです。

これはIMCの考え方でした。私たちは再び上場するつもりでやってきましたから、IMCの傘下に入ったとき、「非上場になったのだから、もう市場の評価は要らないでしょう」と言われ、あえて在庫を増やすようになった当初は、やはり大きなカルチャーギャップを感じました。