「1万円も安くなっている」という錯覚
元の値段が書いてあると、そこに意識が行って「1万円も安くなっている」といったことを評価しがちですよね。そのジーンズの本来的な価値が4990円であるかどうかには、意識が行かなくなってしまいます。
つまり、数字を並べて値引きをするのは、消費者の意識を金額の差、つまり「いくらお得か」にフォーカスさせる効果があるわけです。
値付けの問題にかかわらず、商談や提案の場でも、まず最初にどんな数字を見せるのか少し順番を考えるだけで、提案が通りやすくなったり通りにくくなったりするわけです。
人間の性向に関して、もう1つ面白い話があります。
人はうなぎ屋さんに行くと、多くの人がなんとなく「松・竹・梅」の「竹」を選び、お寿司屋さんに行くと、「特上・上・並」の「上」を選んでしまう。つまり「3つあれば真ん中を選んでしまう」という行動特性があるといいます。
行動経済学者の友野典男氏の著書『行動経済学』(光文社新書)に、このことに関する実験について書かれていたのでご紹介しましょう。
「松・竹・梅」で「竹」が最も選ばれるワケ
経済学者のシモンソンとトヴェルスキーは、106人の被験者に対し、3種類のカメラを使って実験しました。
カメラAは品質は劣るが安く、カメラBは品質も値段も中くらい、カメラCは品質はいいけれど高額です。まずは、被験者にAとBのカメラを見せて、どちらを買うかを選ばせます。その結果、Aを選んだ人もBを選んだ人も50%ずつでした。
次に、品質がよくて高額なカメラCを加えて、再度3つの中から選ばせます。すると、Aが22%、Bが57%、Cが21%という結果になりました。3種類にしたことで、真ん中がより選ばれるようになったのです。
これを応用すれば、売りたい商品の1ランク上と1ランク下の商品をつくればいいことになります。たとえばお茶の販売なら、最も売りたい「健康茶 3000円」のほかに、「高級茶 5000円」や「お買い得茶 2000円」を用意すればいいのです。
これは、お茶やうなぎといった物の値段のつけ方に限らず、保険でもウェブサービスの提案でも、あらゆるビジネスに応用できる考え方です。いいものを安く提案すれば受け入れられるわけではないということです。
このように、毎日の仕事だけでなく、日常の中で消費者として買い物をするときにも、数字の見せ方に注目することで、仕事に活かせる「数字力」は少しずつ磨かれていきます。
数字の魔力に踊らされるのではなく、数字の「裏」を読む習慣を身につけていただきたいと思います。