シャッターを開けた瞬間、すえたニオイが…

なんでわざわざ屋内に駐車しているのか不思議だったが、シャッターを開けた瞬間に理由がわかった。ガレージの内部には、すえたニオイが充満しているのだ。きっつー、公園の汚いトイレと同じくらいの悪臭だ。

浜口さんは意に介さずスタスタと前を歩いている。このニオイ気にならないのかよ。

「あの、この中だけでもかなりニオイがしますね」
「ん? そうか? ちょっとだけだろ。すぐに慣れるぞ」

すごい。ベテランになると気にもとめないのか。俺も早くその境地に達したい。

ガレージの中にはバキュームカーが所狭しと並んでいる。初めてこんなに間近で見たけど、思っていたよりもかなりデカい。4トントラックくらいの大きさはありそうだ。車体には様々なサイズのホースがついていて、それ以外にもタンクの上にはよくわからない器具が備え付けられている。

にしても、このタンクの中にどれだけの量のウンコが入るんだろう。もう少し観察したいところだがこれ以上は鼻がもちそうにない。口呼吸に切り替えて、足早にバキュームカーの助手席に乗りこんだ。

ガレージに比べて、なぜか車内にニオイは全くない。窓際に並ぶ消臭剤のおかげだろうか。これなら移動は苦じゃないぞ。

「おーし、それじゃあ行くぞー」

何分も格闘してたらフラついたことも

時刻は7時50分。車がガレージを出発した。

「最初はどこに向かうんですか?」
「まずは荒川の河川敷だな」

ああ、たしかに河川敷って仮設トイレが多かったような。あれ、どうしてなんだろ。

「そりゃ簡単だよ。川はすぐ氾濫するからさ。あんなとこに下水は通せないから、普通の公衆トイレは作れないわけ」
「なるほど」
「この前の台風のときも多摩川が氾濫しただろ? あんときだって仮設トイレが流されてたはずだぞ」

ふーん。ちゃんとした理由があるんだな。そういえば、あのときマンホールから溢れ出た水の中で泳いでた奴らがいたけど、浜口さんはどう思ったのかな。プロの汲み取り屋の意見を聞きたい。

「ははは、武蔵小杉にいた奴らだろ? ありゃスゲエよな。どっかの浄化槽から出た汚泥も混ざってるだろうに」

やっぱり、汚い水だったんだ。

「それよりタワマンの方がヤベエよ。下水が逆流したんだろ? クソと同じ空気吸ってると気分が悪くなるから危ねーんだ」

へー、そんなことがあるのか。

「前に浄化槽の汲み取りが終わらなくて、何分も格闘してたらフラついたこともあったからな」

病院に行くほどではなかったが、ぼーっとしてしまい、30分近く身体に力が入らなかったとのこと。コワッ。俺も気をつけよう。