世界で最注目のプラットフォームに

音楽を中心としたポジショニングは、若いアーリーアダプター層の獲得に大いに貢献した。

ミュージカリー、ドウイン、ティックトックはいずれも強力な音楽発見プラットフォームであり、その原点は、ミンディのチームの「動画に音楽を付ければ、写真にフィルターをかけるのと同じ効果になる」とのひらめきにあった。

とはいえ、話題の新曲では、中高年のオフィスワーカーやシニア層を魅了するにはさほど効果はない。音楽プラットフォームの位置づけは、提供している実際の価値について、消費者を混乱させかねない。提供しているのは音楽ではなくエンタメ全般なのだ。

こうしたポジショニングの転換は、アプリを利用しやすくするのに必要なことではあったが、北京政府の取り締まりへの対応でもあった。

2018年初頭、バイトダンスはオンライン規制当局と衝突して強い反発にあい、プラットフォーム上のコンテンツを的確に規制できていないと非難を受けた。

マシュー・ブレナン著、露久保由美子訳『なぜ、TikTokは世界一になれたのか?』(かんき出版)
マシュー・ブレナン著、露久保由美子訳『なぜ、TikTokは世界一になれたのか?』(かんき出版)

このため、何万という動画やアカウントを削除し、対策の一環として、ネット中毒防止システムを導入している。

それでも、オンラインマーケターはドウインに殺到し続けた。彼らのあいだでは、「ドウインは、つかまなければならないチャンス」という意見が加速度的に拡大していた。群集心理が働き、まだ競争率の低いいまのうちに参入し、ファンを作っておこうという空気だった。

ティックトックの台頭はアメリカのテック業界に不意打ちを食らわせた。アプリの背景や斬新なイノベーションを分析した長文の論評や詳細な記事が頻繁に掲載されるようになった。

2020年半ばには、ティックトックは無視できない存在となり、20億回もの衝撃的なダウンロード数を叩き出して、紛れもなく世界で最も注目されるプラットフォームとなっていた。

あまりにできすぎた、嘘のような真実だった。

だが、これで終わりではない。バイトダンスとティックトックの物語は、まだこれからも続いていくだろう。

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