ドウインの成功のもととなった4つの原動力

a.インフラ

まず、ドウインの親会社であるバイトダンスが何をしたか、しなかったかにかかわらず、ミュージカリーよりも3年あとにリリースしたというだけで、ドウインのほうがすでに成功するのに有利な条件がそろっていたことは認識する必要がある。

2017年には、高速で、料金の手頃な、安定したユビキタス4Gインターネットが中国全土で広く利用できるようになっていた。ドウインのような動画主体のアプリは、適切なネットワークインフラが広く整備されてこそ、初めて主流になることができる。

安く高速で動画のアップロードやダウンロードができるということは、外出先でもすぐに動画の作成や消費ができることを意味する。

2017年には、データパッケージプランの料金が下がり、地下鉄で通勤中やスーパーでレジに並んでいるときにも、ネットワークデータを使って動画を配信しようと思えるほどになっていた。数年前には考えられなかったことだ。

加えて、その他のサポート技術も、ユーザー体験を大きく強化できるレベルにまで成熟していた。ドウインの台頭について論じるプレゼンテーションのなかで、ドウインのCEOケリー・ジャン(張楠)が注目したのは、「全画面高画質」「音楽」「特殊エフェクトフィルター」「パーソナライズレコメンド」の4つの要素だった。

スマートフォンは全体として、以前よりも画面がはるかに大きく高画質化しており、動画の視聴体験が大きく向上していた。顔認識や拡張現実効果が当たり前になったことで、より魅力的で面白い特殊効果やフィルターが可能になった。

また、画像認識とコンピュータビジョンが大幅に進歩したおかげで、不適切なコンテンツを手作業で審査する必要性がかなり減り、メタデータのない動画の分類も可能になった。

そして何より重要なのは、バイトダンスが専門とするビッグデータとレコメンド技術の進歩であり、これが次に挙げる理由に見事につながっている。

オンラインストリーミング
写真=iStock.com/anyaberkut
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組織内の体系的な実験のプロセスから生まれた

b.母船からのサポート

開発初期のドウインとバイトダンスとの関係は、表面的には、「インスタグラムとフェイスブック」や「ウィーチャットとテンセント」の関係と似ていた。つまり、はるかに大きな、確立された組織のなかの、小さなアジャイルスタートアップという位置づけだ。

早期に収益化しなければならないプレッシャーもなければ、新たな投資ラウンドの交渉に気をとられることもなく、ただ成長し、最高のプロダクトを構築することにだけ集中することができた。

親会社からの独立性を確保しつつ、技術的な知見や資金、インフラシステムを利用でき、ほとんどのスタートアップにとっては夢物語のような多大な恩恵も受けていた。

しかし、バイトダンスの独特な組織構造のため、ドウインの受けていた支援は、よく知られているインスタグラムやウィーチャットの事例よりも明らかに大きな意味を持っていた。

ドウイン(そしてのちのティックトック)には、創業チームはあったが、従来の意味での本当の「創業者」はいなかった。

欧米のほとんどの大手ソーシャルメディアプラットフォームとは異なり、ドウインの成功は個人のビジョンから生まれたものではない。組織内の体系的な実験のプロセスから生まれたものだ。

もともとドウインは、バイトダンスが、ショート動画としてすでに成功して実証済みのモデルだったユーチューブ、中国のショート動画アプリのクワイショウ、ミュージカリーの自社版を作ろうと決めた際の、「3本の矢」戦略のひとつとして誕生した。