データベースが「強力な武器」に
その後、3つすべてが、同社の既存の技術スタックとビッグデータにつながれた。なかでも重要だったのが、レコメンドエンジンと既存のユーザープロファイルのインタレストグラフだ。
バイトダンスAI研究所所長の言葉を引用すれば、同社の「強力な武器」は、コンテンツレコメンドエンジンに加えて、何百万ものユーザープロファイルとインタレストグラフからなる既存のデータベースだった。
バイトダンスの中核であるコンテンツアプリは、同じバックエンドの技術スタックとユーザーデータを共有している。
たとえば、バイトダンスのひとつのアプリで、ある記事が読まれ、「いいね」が付くと、別のアプリのコンテンツレコメンドに直接影響を与える可能性がある。
「私たちの誰もが、一般のユーザーには見えないインタレストグラフをバックエンドに持っています。たとえば、私がいちばん興味のある有名人とか、関心のある企業10社とか」と、「バイトダンス」の共同創業者のイーミンはあるインタビューで説明している。
ニュースフィードと同様に、短尺の動画もこのプロセスにぴったりとマッチしていた。通常、ユーザーは、1分間に何度も画面をスワイプしたりタップしたりするため、そのたびにユーザーの好みが少しずつ明らかになり、インタレストグラフをさらに充実させることができる。
一方、長尺の動画では、ユーザーは連続ものの45分のドラマを一度も画面に触れずに観られるため、提供されるデータははるかに少なくなる。バイトダンスの幹部は、後発とはいえ、ショート動画市場への参入に本腰を入れなければならないと感じていた。
動画が今後のトレンドになるのは明らかで、しかも、とりわけショート動画では、バイトダンスはその恩恵を受けるのに最適な立場にある中国企業だったからだ。
「アプリ工場」モデルが成功の鍵
バイトダンスは、同社のショート動画プラットフォームが低空飛行(ゼロ評価)の時期を脱して最初のトラクションを獲得すれば、あとはどのプラットフォームが最も結果を出しているかを評価し、リソースと支援を適切に配分するだけでよかった。
この「アプリ工場」モデルこそ、バイトダンスの成功を理解する鍵となる。単なるコンテンツベースのプラットフォームであれば、人気を失って流行遅れになるという問題に影響されやすい。エンタメ系のアプリは多くの場合、飽きられれば削除されてしまう。
端末の買い替え時に再インストールするのを忘れられてしまうこともある。このリスクを軽減するには、新しいアプリを絶えずリリースして試すことが効果的となる。バイトダンスは、次々と改革を続けていく仕組みになっていた。
複数のアプリを構築して、どれがトラクションを獲得するかを試す実験手法は、イーミンが以前立ち上げたスタートアップ「ジウジウファン(九九房)」にまでさかのぼる。ジウジウファンでは、すべて不動産に特化した5つのアプリを作っている。
イーミンらのチームは、何年もかけてこのプロセスを大幅に改善していた。リソースは、明確な指標を基準にして配分が可能で、あるアプリのデータが強いエンゲージメントとユーザー定着率を示せば、その業績を高めるために、さらにリソースが割り当てられた。
スタート以来長らく低迷が続いたのち、ドウインの定量的データから、ついにこのアプリが有望であることが示された。予算や、技術者、トラフィック、有名人の推薦、上層部からの注目はすべて、成長に効果的なチャネルへと集まっていった。
一方、このモデルのもうひとつの側面は、大胆さだった。何かに勢いがあれば(ドウインが明らかにそうだったように)、イーミンはそのプロセスを加速させるために躊躇なく莫大な予算を付けた。
ショート動画に関しては、特にそれが当てはまる。後発であるからには、時間との勝負だとわかっていたからだ。