「知る」は一日、「使いこなす」は一生

学問としてのマーケティングは、今起こっていることの整理が主な仕事といえます。では現実に経営に携わっている方々が未来のマーケティングを考えていこうというときに、何をよりどころにするべきなのか。そのときにマーケティングという学問にできることは何か。

再びコトラーの言葉を借りますと、彼はマーケティングは一日あれば学べると言っています。もちろんこれはビジネスマンとしてという話ですが、私もそれはそうだと思います。それなりの経営幹部ですとか、企画担当者とか、商品開発担当者といった人たちというのは、マーケティングに近いものに触れているので、一日あれば学べる。そこで学ぶマーケティングは何かというと、マーケティングのスタンスであり、あるいは発想なのです。一つひとつのディテールではない。そういうマーケティングは非常にシンプルで、やはり「売れる仕組み」なのです。

では売れる仕組みをつくるためにはどうすればいいか。出発点は、やはり顧客をしっかり知ることです。マーケティングの中で押さえなくてはいけないポイントがある。それは本当に一日あれば学べるだろうと思います。だから学問としてのマーケティングが提供できるとすれば、そういう発想だとか、スタンスを学んでもらう。エグゼクティブに対してはそれで十分です。

問題は、使いこなすには一生かかる。これもコトラーの言葉です。フレームワークとか、スタンスはかなり短時間で理解できる。しかし使いこなすのはまた話が別、ということです。だからある程度経験のある人たちにマーケティングが貢献できるとすれば、ぶれないスタンスや発想を維持してもらうことだと思います。

企業を見ていると、優れた企業でも技術だけでものをつくって失敗しているところがたくさんあります。独り善がりと言ったら悪いのですが、新技術があるとその技術を実際にすぐに製品、サービスに落とし込みたい。それで失敗している。その失敗している理由のほとんどが、顧客を見ていなかったということではないでしょうか。上で述べたように、単に顧客を追随すればいいというわけではなく、たとえ半歩でも先をいく努力を怠らないなど、顧客との抜きつ抜かれつの関係を忘れてしまうと失敗しがちです。

そういうところを教えてくれるのが、マーケティングという学問です。手法やツールも数多く存在するのですが、調査の手法や開発方法などは現場に任せればいい。マネジャー以上であれば、近視眼でなくて広角でものを見るべきで、もっと大所高所から捉えられるべきでしょう。

(インタビュー・構成=プレジデントオンライン編集部/写真提供=早稲田大学)